2000年11月




黒い仏』執筆中、ときどき福岡県警二丈町比叡山延暦寺のサイトを訪れました。記して感謝いたします。

 ほかにも感謝しなければならないサイトはいくつかありますが、それはまだ内緒ということで……。


 ロバート・ワイアットエルヴィス・コステロの〈Shipbuilding〉は、なぜキーが半音違うのだろう。(ここを参照。ただし、ちょっと重いですよ)


 サンプリングの元ネタをリスト化したSampling FAQ。検索機能がついているので、とっても便利。

 ビースティ・ボーイズの1st.にレッド・ツェッペリンAC/DCが使われているとか、ケミカル・ブラザーズ〈Setting
Sun〉のネタがビートルズTomorrow Never Knows〉だというのは薄々感づいていたが、わたしがいちばん驚いたのは、ファットボーイ・スリム〈The
Weekend Starts Here〉のドラムスがエマーソン、レイク&パーマーで、ハーモニカがブラック・サバスだということ。

 EL&Pのドラムに載せてブラック・サバスのハーモニカが鳴り響く楽曲などあり得るわけがない! と思われる方も多いでしょう(特にプログレファン)が、こういう楽曲が生まれてしまうのが、サンプリングのおもしろさなのです。

 ちなみに、ファットボーイ・スリムの新譜《Halfway Between the Gutter and the Stars》は意外とよかった。前作のような八方破れ感は薄れて、かなり内省的な内容だが、これはこれでいいでしょう。懸念していた〈Sunset
(Bird of Prey)〉(ジム・モリスンの詩の朗読をサンプリングした1st.シングル)も悪くないです。


 ファットボーイ・スリムの新譜ライナーで、Sample Clearance Service, Ltdなる会社の存在を知った。

 あなたが自分の曲に何かサンプリングを使用したとする。この曲をシングルとしてリリースして、全世界で5000万枚くらい売れたとすると、サンプリングの原作者あるいは著作権所有者が訴訟を起こしてきて、10億ドルくらい請求されるかもしれない。最終的にいくら払うかどうかわからないが、少なくとも、1年以上の裁判沙汰にはなる。

 そこで、まず著作権をクリアしておこうと思うのだが、あなたがサンプリングしたソースは中古レコード屋で100円で買ってきた大昔のLPレコードで、原作者がどこにいるのやら、現在の著作権所有者が誰なのやら、全然わからない。すでにパブリック・ドメインになっているかどうかすら、さだかではないわけだ。

 そういうとき、この会社に頼むと、約3ヵ月で著作権を調べ、原作者あるいは著作権所有者と交渉してくれる。依頼も簡単で、ホームページにある依頼フォームに書き込み、カセットあるいはCDRで(1)使用したサンプリング、(2)あなたの楽曲、(3)サンプリングした原楽曲を送るだけでいいらしい。

 こういうビジネスが成立するのも、サンプリング全盛期だからでありましょう。

 また、音楽業界がいかに儲かるかという証拠でもある。盗作や剽窃までいけばともかく、小説に引用したからといって告訴されることはあんまりないからね。(でも、わたしは小心者なので、サンプリングソースはすべて明記することにしてます)


 都筑道夫氏の長編小説『怪奇小説という題名の怪奇小説』には、スタインベックの短編「蛇」がまるごと収録されているのだが、これはたぶん、版権をとったんでしょうね。


 ゴジラ対タマゴッチ。(Shockwave
Plug-inが必要です)


 米倉涼子の公式サイト

恋のから騒ぎ」で素人相手にガンを飛ばしているのを見て、どういう人か興味を持った。なかなかおもしろいキャラなので、今後もトーク番組に出演して、ガンガン生意気なことを言ってほしいと思う。

 容姿は全然好みじゃないので、「ストレートニュース」は見てません。


 玉村豊男氏経営の農園、ヴィラデストのホームページ。

 わたしは玉村氏からすごーく影響を受けた。といっても、文筆方面ではなく、料理に関してですが。

 だいたい、わたしは物事を演繹的に考えるたちなので、玉村氏の料理理論(名著『料理の四面体』文春文庫参照)がいちばんしっくり来たのだ。いま現在、スーパーで安売りしている素材を適当に買ってきてインチキな料理をつくれるのも、シチュー鍋でごはんが炊けるのも、すべて玉村氏のおかげです。

 軽井沢で農園を経営して暮らしているというと、優雅な生活に見えるが、たぶんけっこう大変なんだろうと思う。


 BOOK OFFに行ったら、昔のヒップホップの名曲を集めたコンピレーションCDがあったので、買ってきた。アフリカ・バンバータ&ソウル・ソニック・フォースの〈プラネット・ロック〉を約10年ぶりに聴く。

 この曲を聴くと思い出すのが、高橋健太郎氏が著書『音楽の未来によみがえるもの』に書いていたエピソードだ。

 昔、高橋氏がニューヨークに行ったとき、黒人の若者がでっかいラジカセ(ゲットー・ブラスターというやつ)を肩にかついで、音楽を大音量で流しながら歩いているのを見かけた。それ自体は珍しい光景ではないが、聞こえてくる音楽がクラフトワークの〈ヨーロッパ特急〉なのだ。なぜ黒人がラジカセでクラフトワークを流しながら歩いているのか?

 ニューヨーク在住の知人に訊くと、「それはクラフトワークじゃなくて、アフリカ・バンバータの〈プラネット・ロック〉という曲だ。いま流行ってるんだよ」と教えられた。

 さっそく高橋氏は12インチを買ってきて、聴いてみた。ところが、どう聴いても、それはクラフトワークの〈ヨーロッパ特急〉で、しかも変な早口のしゃべりが重なっている。これはいったいなんなんだ?

 かっこいいとか悪いとか、すごいとか新しいとかいう以前に、まったく理解不能だった、と高橋氏は回想している。

 本当に斬新なものと対峙したとき、最初は理解不能なのはあたりまえだ。わたしにも似たような経験がある。

 80年代後半、アメリカでハウス・ミュージックなるものが流行っていると知って、わたしは《The House Sound of
Chicago》という2枚組のコンピレーションCDを買ってきた。で、聴いてみたのだが、これがさっぱりわからない。安物のドラムマシーンとシンセベースがえんえんと同じフレーズを繰り返すだけで、コードもメロディもないのだ。どう聴いても、デモテープにしか聞こえなかった。なぜこんなものが流行ってるんだ?

 その後、ハウスは世界的に普及し、洗練され、商業化されていった。わたしの耳も慣れたし、もっと若い世代の人なら、バスドラ四つ打ち+裏で入るオープンハイハットは生まれたときからおなじみだろう。しかし、最初は(少なくともわたしには)理解不能な音楽だったんですよ。


 わたしはジャンルにこだわらない性格なので、音楽を聴いていて、ときどき突拍子もないことを考える。

 ロバート・ジョンスンのCDを聴いたとき、ボトルネック・ギターの音色がすばらしく気持ちよくて、「ああ、これはTB-303とかムーグのブヨブヨ音の気持ちよさと同じだなあ」なんて思ったりする。

 また、わたしはサラ・ヴォーンが好きで愛聴しているが、これは彼女の声がすてきだからである。ソステヌートしていくあいだに、声が少しずつ“変調”していくのだ。聴いていて、しびれる。

 しかしながら、

「ロバート・ジョンスンのギターはTB-303のようにかっこいい」

サラ・ヴォーンの声帯はムーグ・シンセサイザーのフィルタに匹敵する」


 などと言うと、シリアスな音楽ファンからひんしゅくを買うだろうなあ。


 たったいま米倉涼子フレッシュアイのCMをやっていることに気がついた。


 最近発見したこと——大森望さんが髪を染めると坂道コロコロになる。

 相方はきくちまことさんで、どうか。(きくちさんはエルヴィス・コステロに似ていると思う)


“ニコニコハードボイルド大会”と題して、「三つ数えろ」(ハワード・ホークス監督、1945)と「マルタの鷹」(ジョン・ヒューストン監督、1941)をDVDで観た。ちなみに、どちらも原作は読んでません

三つ数えろ」には有名なエピソードがある。

 原作(レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』創元推理文庫)を読んだホークス監督が、運転手のテーラーを殺したのが誰かどうしてもわからなかったので、チャンドラーに電話をかけた。すると、チャンドラーは「わたしも知らない」と答えた。

 このエピソードを紹介した瀬戸川猛資氏は「実はテーラーは自殺したのだ」と書いている。

 ところが、ジョン・サザーランド『現代文学39の謎』(みすず書房)には、全然違う解答が示されているのだ。

 以来、わたしは『大いなる眠り』というのは、とてつもなく難解な小説に違いない、と思っている。

 で、「三つ数えろ」を観たら、これがまた、とてつもない前衛映画だった。

 とにかく、話がさっぱりわからない。要するに、ハードボイルド的な場面をつなぎ合わせてあるだけなのだ。これを前衛映画と呼ばずして、なんと呼ぶのか。

 レイモンド・チャンドラーウィリアム・フォークナーリー・ブラケットハワード・ホークスという名だたる才能が結集すると、恐ろしい映画ができあがるものだ、と思った。(<すごくおもしろかったですよ。念のため)

「マルタの鷹」はずいぶん前に観て、今回が二度目。非常に忠実な映画化(台詞もほとんど同じとか)らしいので、わたしは原作を読んだような気になっている。

 今回もとてもおもしろかったし、話もよくわかった。基本的におとぎ話のようなストーリーなので、真性ハードボイルドファンには嫌う人も多いようですが。

 とにかく、シドニー・グリーンストリートとピーター・ローレを見ているだけで楽しい、という映画です。