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学会誌名の変更と新しい表紙デザインのお知らせ


人工知能 29巻1号 (2014年1月) 巻頭言


学会誌の新しい出発:まだ見ぬフロンティアを目指して


 人工知能学会の学会誌を、「人工知能学会誌」から「人工知能」と変更することになりました。また、それにともなって、表紙のデザインを一新することになりました。これまでの人工知能学会のイメージからだいぶ変わったデザインに、驚かれた方も多いのではないかと思います。その意図や経緯について書きたいと思います。



 今回、学会誌の名称を「人工知能学会誌」から「人工知能」に変更した大きな(そして唯一の)理由は、人工知能学会をもっと広い範囲の読者にアピールすることです。昨今、人工知能の技術が注目されています。IBMのワトソン、コンピュータ将棋や囲碁のプロ棋士との戦い、Siri、東ロボ、イプシロン、…。最近話題になったものだけでも枚挙にいとまがありません。社会の多くの人が人工知能に漠然とした期待を抱いています。人工知能という言葉に、未来に通じる新しい希望を感じています。だからこそ、我々はきちんと社会に対して情報を発信していくべきだと思いますし、これまでに我々が長い間、積み重ねてきた研究を、正しい形で理解してもらうように努力すべきだと思います。80年代の人工知能ブームに、我々はうまく応えられなかったのかもしれませんが、それから20年たち、多くのことを我々は学んできたと思います。これからの社会の期待に応えていきたい、人工知能の技術が社会に広がり、よい影響を与えるその中心に、人工知能学会は居続けたいと思います。


人工知能学会誌」という名称は、人工知能学会という学会の発行する会誌であることを示していますが、社会の多くの人々は、(少なくとも最初は)学会には興味はなく、「人工知能」という技術や概念に興味があると思います。今回、学会誌の名称を変更するにあたって、多くの人に興味を持ってもらうには、学会誌という言葉を外し、「人工知能」とするのが良いのではないかと考えました。このアイディアを山口会長に話したとき、即答で良いのではないかという返事をいただきました。理事会でも、編集委員会でも、ほとんど誰からの反対意見もなく、賛同をいただきました。


 また、学会誌の名称の変更に伴い、表紙のデザインも変更することにしました。これには、クラウドソーシングを用い、デザインをコンペ形式で募集しました。合計で約100点のデザイン案がわずか3週間の間に集まり、これに対し、理事、編集委員、一般の方(会員も含む)からの投票を行いました。その結果、今回採用した女性が中心にいるデザインは、編集委員会および一般からは圧倒的な1位、理事からも2位の支持となりました。他に、もっと「おとなしい」デザインもたくさんありましたが、投票で1位になった今回のものは、予想していたものよりもずっと大きな変更を伴うデザインで、正直、学会誌の表紙としてふさわしいのだろうかと悩みました。歴代の会長や現在の会員の方がどう思うだろうかも思い悩みました。しかし、多くの人にアピールすることを考えると、一度は手に取ってみたくなる表紙、ふと目に留めてしまう表紙というのは重要な要素だと思います。一度手に取って中身さえ見てもらえば、その中身に面白さを感じてくれる人もたくさんいるはずです。多くの人に人工知能の魅力や面白さを感じてもらうことは、学会の重要なミッションだと思います。今回、非常に「挑戦的な」デザインが選ばれたのは、そのことを、人工知能学会に関わる多くの人が潜在的にずっと感じていたのではないかと思います。



 表紙のデザインは、今後、毎号変わっていく予定です。今回のデザインは、「日常の中にある人工知能」というコンセプトで、掃除機が人工知能になっていることを表しています。次号以降、どういった表紙で届くのかも楽しみにして頂ければと思います。今後、多くの人に学会誌を読んでもらうために、さまざまな形で学会誌や記事が入手可能になるような試みを行っていく予定にしています。「人工知能」という学会誌が、今後、多くの人に届いて、ますます面白い記事を掲載していけるように、編集委員会一同、尽力していきたいと思います。


人工知能」の表紙に対する意見や議論に関して


 今回、人工知能学会の学会誌名の変更と表紙デザインの変更に関し、さまざまなご意見や議論がウェブ上で展開され、ご批判も多く寄せられました。不快な思いをされた方々、また人工知能学会を日頃から支援して頂いている関係者の方々に深くお詫び申し上げます。


 数多くいただいたご意見の中でも、最も多かった批判は「女性蔑視ではないか」「女性差別ではないか」というものでした。今回の表紙デザインに、女性を差別するような意図はありません。しかしながら、「ロボットが女性型をしている」「それが掃除をしている」「ケーブルでつながれている」等の要素が相まって、女性が掃除をしているという印象(さらには女性が掃除をすべきだという解釈の余地)を与えたことについては、公共性の高い学術団体としての配慮が行き届かず、深く反省するところです。


 また、このデザインの技術的な背景に関するご批判もいただきました。デザイナーがデザインに込めた意図は下記(※)の通りです。こうした人工知能の将来像は、想像しうる数多くの将来像のなかのひとつであると思います。人工知能を搭載したロボットが将来、日常生活で使われる際に、その外見はどうあるべきかというのは深い問題であり、さらに議論を重ねていきたいと思っております。


 今回の表紙にはロボットが描かれておりますが、本来、人工知能という技術は、目に見えるものではありません。知能がどのように実現され得るのか、知識がどのように生成され処理されているのか、そもそも知能や知識とは何か、そこに身体性やインタラクション、言語、社会、ウェブなどがどのように関わるかという、いわば目に見えないものを研究するのが人工知能という学問分野です。したがって、表紙のデザインにあたっては、「見えないものを分かりやすく提示する」ことが最も難しい部分であり、今回はその部分で多数のご批判をいただいたと考えております。


 編集委員会では、さまざまにいただいたご意見を受け止め、今後の改善につなげていきたいと考えております。また同時に、学会が新しい形で社会に発信していきたいという当初のビジョンを見失わず、多くの方に人工知能の技術や研究を知ってもらえるよう、新しい試みを続けていきたいと思っております。今後とも、編集委員会一同、尽力して参りますので、厳しいご意見を含め、引き続きご支援いただきますようよろしくお願いいたします。


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デザイナーによるデザインの意図(※):
 人工知能を描くにあたって、昭和な感じを出すことを意識した。なぜなら生活や人間自体は時間が経っても案外変わらず、最新の技術であっても、夢見たような未来ではなくアナログな部分が必ず残るからである。従来のAIの未来予想を考えてみても、そこまでの変化は起こっていない。
 部屋は、和風な洋室、読書家のひとり暮らしで、掃除をする人がいないので掃除ロボットを使っている。女性型のロボットが本を読んでいるのは、自律性を示している。日本の家屋を掃除するには、やっぱりほうきがよい。背中のケーブルは電源で、電気自動車の高速充電で使われているようなもので、ここも従来技術がアナログ的に使われていることを表現している。
 「擬人化」という表現技法を用いて、日常生活に人工知能が擬人化され溶け込む場面を描いた。このロボットはほうきや本と互換性があり、いままで人間が育んできた文化を置き換えるのではなく、いまの文化や生活を大切にしながら、そこに溶け込んでいく技術であって欲しいという願いを表現している。