稜堡城郭用語集 ヴォーバン方式

(仏Systèmes de Vauban)
ヴォーバンによって⼤成、理論化された稜堡式城郭の築城⽅式。3期に分かれ、それぞれに第⼀から第三までの名称が付けられている(機能についてはまだ勉強中)。
ヴォーバン式要塞という単語は稜堡式要塞の代名詞のように使われるが、正確にはヴォーバンの築いた要塞のみに適⽤されるべきもの。加えてヴォーバンの仕事⾃体にこれらの⽅
から逸脱したものも多い。理論としてもそのまま受け継がれることはほとんど無く、特に第⼆・第三⽅式は後に続く例がない。後の築城家に多⼤な影響を与えつつ、各築城法のベー
になっていると⾔ったほうが正しい。稜堡式城郭における縦深化傾向などはヴォーバンの時代が最盛期で、これ以降は急速に縮⼩する。


ヴォーバン第⼀⽅式



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当時フランスで確⽴していた稜堡築城理論をほぼ引き継いでいる。確⽴しつつあった斜堤や半⽉堡が積極的に採⽤された。またこの当時から凹
が設けられている。エルラールやクレルヴィルが通常稜堡を⽤いたのに⽐べ、⽮頭型稜堡を頻繁に⽤いている。リール等の後期には通常稜堡が使
れるようになってくる。
※私⾒ この理由として⽮頭型稜堡の特徴であるflank部分の砲座を掩体化できたためと推測。要検索。
代表例はザールルイ、バイヨンヌ、リール等。

ヴォーバン第ニ⽅式



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第⼀⽅式では稜堡が最前線から近く、これが陥落した場合には⼀気に内部まで攻め込まれる恐れがあった。これに対処するため稜堡の拠点とし
の強化が⾏われ、⼩さな堡塁化した稜堡を巨⼤なカウンターガードが囲い込むような形状に変化した。中⼼部の⼩稜堡は独⽴した堡塁として機能
し、塔稜堡になる場合も多かった。これにより、稜堡外郭が突破されても堡塁化した⼩稜堡からの反撃が可能となった。
また凹郭も⼤型化し、防壁ではなく⼀つの拠点となるよう拡⼤された。
代表例はベルフォール
※私⾒。このような⼩稜堡は形態的にカポニエールと似ているが、あくまでカウンターガード的稜堡外郭への対応とカーテンへの側射を意図し
いるという意味で、接する堀内全体を掃射しようとするカポニエールとは異なっていると思う。掩体化された砲郭についても同様。

ヴォーバン第三⽅式



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第⼆⽅式では稜堡中⼼部の拠点化によって稜堡の防御⼒が強化されたが、これにより⼩稜堡間のカーテンが⻑⼤化し側射に⽀障をきたすように
った。これに対処するため、カーテン中央に凹部が設けられ、側射強化が図られた。また半⽉堡にも稜堡と同等な処置が施され、⼆重化すると共
中⼼部が堡塁となった。
ヌフ・ブリザックが唯⼀の例。
※私⾒。縦深化は極限まで推し進められたが、これに伴う防衛に必要な⼈数・設備は極端に増加し、各部位への移動も煩雑になったことが予想
きる。したがってどこまで実⽤的であったかは甚だ疑問。ヴォーバン以降、縦深化が縮⼩する傾向にあるのは、相⼿⽕砲の発達と共にこのような
況も理由の⼀つになっているものと思われる。
参照ページ
http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴォーバン
http://www.vauban.asso.fr/systemes.htm
掩郭 (えんかく 蘭contregarde、couvre face 伊controguardia 仏contreguarde 英counterguard)
凹郭同様、堀内にあって稜堡を保護しつつ、敵に反撃するための拠点として機能する施設。伊・仏・英ではカウンターガードに類する単語で済
せる場合が多いが、オランダでは稜堡の斜め前にあるものをcontregarde、稜堡前⾯にあるものをcouvre faceと呼んで区別する。
参照ページ http://www5a.biglobe.ne.jp/~tsukuba/Ryo/Html/Toha.htm
http://nl.wikipedia.org/wiki/Couvre-face
円弧⽅式 (えんこほうしき 英circular system )
主に海上に向けた砲台要塞に⽤いられた築城⽅式で、⽕⼒が強いにも拘らず⽬標としては⼩さい船舶に対抗するため、⽕⼒の集中が⾏われた。
れにより要塞⾃体はコンパクト、且つもっとも周囲に対抗できる円弧を描く塁壁線を持つようになった。後にはさらに⽕⼒を増すため、掩体をと
なう要塞建築に発展していった。
各国の沿岸砲台に類例多数。
参照ページ http://civilwarfortifications.com/dictionary/xgs-006.html
掩体 (えんたい 仏casemate 伊・蘭・英bunker)
本来は意味幅の広い⾔葉で、現代戦では航空機や船舶の保護格納庫、戦場での個⼈保護孔(タコツボ)にも⽤いられる。英語等のbunkerはさら
意味が広く、トーチカにも⽤いられる。⽇本語で稜堡式城郭の話題を扱う場合はランパート(塁壁)内に設けられた⽕砲の保護室の状況(室⾃体
砲郭)を指す場合が多い。(図はヌフ・ブリザックの側射⽤砲郭を外部から⾒たところ。銃眼が⼆つ開いている)
参照ページ http://ja.wikipedia.org/wiki/掩体壕
http://it.wikipedia.org/wiki/Bunker
http://fr.wikipedia.org/wiki/Casemate
掩堡 (えんほ︓私訳 伊mezzaluna 蘭halve maan 仏contreguarde 英counterguard、half-moon)
稜堡前⾯にあってこれを保護する堡塁。各国で名称に混乱がみられるが、「半⽉」を意味する単語が本流。⼀⽅、フランスではカウンターガー
の語を充てる。英語は両⽅使うがカウンターガードの使⽤例が多数派。オランダ流の解説ではわざわざ半⽉堡(ラヴェラン、蘭ravelijn)と混合し
いようにという断り書きがよく付く。
2018/8/26 https://sites.google.com/site/ryoubaoshijoukakurisuto/yougosyuu/ryou-baojoukaku-yougo-shuu--a-kudari?tmpl=%2Fsystem%2Fapp
https://sites.google.com/site/ryoubaoshijoukakurisuto/yougosyuu/ryou-baojoukaku-yougo-shuu--a-kudari?tmpl=%2Fsystem%2Fapp%2Ftemplates… 2/2
参照ページ
http://nl.wikipedia.org/wiki/Halve_maan_(vesting)
凹郭 (おうかく 伊tanaglia 蘭・仏・英tenaille)
カーテン(中堤壁︓私訳)及びそれに通じる連絡路の保護、堀内へ侵⼊した敵への反撃拠点として⽤いられ
た。凹堡と同名の施設だが役割は全然別。
いくつかの資料ではヴォーバンが創始した施設とあるが、それ以前にも類例がある。
参照ページ http://www5a.biglobe.ne.jp/~tsukuba/Ryo/Html/Toha.htm
http://nl.wikipedia.org/wiki/Lijst_van_vaktermen_in_de_vestingbouwkunde
http://www.coehoorn.nl/begrippenlijst/structuur/menubegrippenlijst.html
王冠堡 (おうかんほ 伊opera a corona 蘭kroonwerk 仏crown 英crownwork)
外堡(がいほ︓私訳)の⼀種で三つの稜堡を先端に配置したもの。両側が半稜堡、中央が通常の稜堡である場合が多いが、すべて通常稜堡の例も
まある。⼤掛かりな施設になる場合が多く、橋頭堡(英bridgehead)には特によく⽤いられた。また四つの稜堡が付く場合、特にダブルクラウン
称する。
参照ページhttp://www.coehoorn.nl/begrippenlijst/structuur/menubegrippenlijst.html
http://en.wikipedia.org/wiki/Crownworks
横堤 (おうてい 伊・蘭・仏・英traverse)
着弾時の被害範囲を最⼩限に⾷い⽌め、波及するのを防ぐための⼟塁。区画内を区切るように設置された。オランダでは胸壁をまたがって設置
れる横堤を特にbonnet traverseと呼ぶ。
参照ページ http://www5a.biglobe.ne.jp/~tsukuba/Ryo/Html/Toha.htm
http://nl.wikipedia.org/wiki/Traverse#Vestingbouw
http://www.vauban.asso.fr/glossaire.htm
凹堡 (おうほ︓私訳 伊tanaglia 蘭・仏・英tenaille)
アウトワーク(外堡︓私訳)の⼀種。突端が屈折しているだけの外堡中最も単純な形状。 凹郭と同名の施設だが役割は全然別。
参照ページ http://nl.wikipedia.org/wiki/Lijst_van_vaktermen_in_de_vestingbouwkunde
http://www.coehoorn.nl/begrippenlijst/structuur/menubegrippenlijst.html
凹堡⽅式 (凹堡⽅式︓私訳 蘭getenailleerd stelsel 英tenaille system)
17世紀から18世紀にかけて稜堡式城郭と並⾏して造られた要塞築城⽅式。モンタランベールが実質上の創始者だが、形式⾃体は凹堡に⾒られる
うに以前から存在し、覆道や外郭の形態には早くから⽤いられていた。
稜堡式城郭のように中堤及びカーテンを持たず、突出部と凹部、すなわち凹堡のユニットを連続させたような形状をしている。実例としては古
ランダ形式の外郭から発展した各種遺構や、⾃由の⼥神像台座であるFort Wood(左図)を始めとするアメリカ合衆国内の諸要塞が有名。また、
ンタランベールの思想を受け継いだプロシアでは都市囲郭にも⽤いられた。イギリスやロシアでも防塁に採⽤例が多い。
強⼒な側射機能を持つが、能⼒を最⼤限に引き出すには各突出部の⾓度に制限があることや、それに伴って地形への柔軟性が⽋けること等、使
勝⼿が悪かった。決定的だったのは正⾯⽅向への⽕⼒が不⾜し勝ちなことで、稜堡式城郭の衰退以前に消え去る原因となった。モンタランベール
主⽕⼒を⽕⼒の集中された堡塁・要塞塔・掩体化建築に置き、凹堡式外郭はそれと組み合わせて初めて威⼒を発揮するものとしたが、集中された⽕⼒設備が無い場合には、防御性は
いものの中途半端な攻撃⼒しかない要塞になってしまった。結局稜堡式要塞ほどには普及せず、要塞全体に⽕⼒集中指向を持ち込んだ多⾓形⽅式に取って代わられた。
参照ページ
http://civilwarfortifications.com/dictionary/xgs-006.html
http://de.wikipedia.org/wiki/Tenaillensystem
http://www.coehoorn.nl/begrippenlijst/begrippen/Getenailleerd%20stelsel.html