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垂直離着陸機ハリアーがごくごく普通の民間の貨物船のコンテナの上に不時着した「アルレイゴ号事件(Alraigo Incident)」」

2018.01.31 14:46 by chaka

どこにでも降りられるのが垂直離着陸戦闘機ですが、やはり降りていい場所、降りては行けない場所というのがあります。1983年に起こったアルレイゴ号事件(Alraigo Incident)は、燃料切れのイギリス軍機が、なんとスペインの民間船のコンテナの上に降りてしまって当時大問題となった事件です。



ハリアーVTOL、要するに垂直離着陸ができる戦闘機としては、
世界でほぼ唯一実用されている機体。
ヘリよりも高速で滑走路も必要なく、こんな飛び方が可能です。

前輪が故障で出なくなってしまったハリアー垂直離着陸機の非常手段がすごい – DNA


さて、事件があったのは1983年6月7日、ポルトガル沖でのこと。

英国海軍空母イラストリアスに乗り込んだイアン・”ソーピー”・ワトソン中尉は、自身初めてとなるNATO軍演習に参加していました。彼に与えられた任務は、 シーハリアー機番ZA176に乗り、敵軍役のフランス軍空母を電波封鎖下で発見すること。

イアン・”ソーピー”・ワトソン中尉とシーハリアー機番ZA176


僚機と2機で飛び立ったワトソン中尉は、
受け持ちの海域をスキャンしフランス軍空母を無事に発見。

そのまま僚機と再合流し帰還……となるところでしたがうまくいったのはここまで。
合流地点に僚機は現れず、無線も故障してしまったのか通じません。
そして最もまずいことに誘導装置NAVHARSが正常に動いていないこともこの時判明しました。

不時着するなら船の往来がある定期航路上のほうが助かる確率は上がります。
ワトソン中尉は燃料切れを心配しつつ東に機首を向け定期航路の近くへ飛行しつつレーダー水上船舶を捜索。
すると80km先にスペインの貨物船アルレイゴ号を見つけることができました。



ワトソン中尉はアルレイゴ号から見える位置で脱出しようと接近、
しかし上空をフライバイしたところでコンテナがちょうど着陸パッドくらいの大きさであることに気が付きました。

燃料がもはやギリギリで、これ以上飛ぶのはムリと考えたワトソン中尉は、
2回めの接近でこのコンテナの上に着陸を決行しました。


コンテナにはカナリア諸島のラ・パルマ天文台で使用する天体望遠鏡の土台が積まれていました。
ワトソン中尉は正確にコンテナを捉えましたが、
コンテナの天井が濡れていたため車輪が横滑りを始めてしまいます。
あわてて主脚を引き込み、胴体をつけてブレーキをかけようとしましたが間に合わず、
尾部がコンテナから落下、
駐車してあった輸送中のバンに当たりようやく機体は動きを止めました。


ギリギリ引っかかったハリアー


その4日後、アルレイゴ号はサンタ・クルス・デ・テネリフェのドックに入港。
既にイギリスとスペインの間で外交交渉が始まっており噂を聞きつけたメディアが集まっており港は大混雑となりました。

積荷や貨物船の損傷などの補償を誰がするのか大いにモメたようで、
こちらの写真ではスペイン人の乗組員が「イギリス人になりたい」「政府は何もしてくれない」などとメッセージを掲げています。
最終的には船のオーナーと船員に57万ポンド(当時のレートで約2億800万円)が支払われたようです。




さて、その後当のワトソン中尉はどうなったのでしょうか。
2007年、イギリスの国立公文書館は海軍に関する多くの文書を公開し、
その中にこの事件の結末に触れた文書もあったそうです。

文書によれば、イラストリアスに帰艦したワトソン中尉には査問委員会が開かれたものの、ほぼ「お咎めなし」だったとのこと。
理由は不明ですがイギリス軍はこの事件の前年、1982年のフォークランド紛争中に貨物船「アトランティック・コンベイヤー」号と「アトランティック・コーズウェイ」号を簡易空母に転用してハリアーを運用しており、このため貨物船に下ろすというアイディア自体は(イギリス海軍にとっては)突飛なものではなかったというか「ついこの間同じことをやった」という感じだったのかもしれません。

フォークランド紛争中、アセンション島近くでハリアーの離着陸ベースとなっている「アトランティック・コンベイヤー」号


しかしイラストリアスが母港に帰還し2度めの査問委員会が開かれた際は、ワトソン中尉が海上で必要な訓練の75%しか修了していなかったこと、そして彼の指揮官に対して整備の十分でない機体を割り当てたことの責任が問われ、ワトソンは懲罰としてしばらくの間デスクワークに送られたということです。

その後、ワトソン中尉はシーハリアーで2000時間、F/A-18で900時間飛行し1996年に退役。もう1つの主役であるシーハリアー機番ZA176はその後、1992年にFA2型に改修され2003年9月20日に退役しました。こちらは現在はノッティンガムシャーのニューアーク航空博物館にて展示されています。

ワトソン中尉はこの事件について「世間の注目を浴びてしまったがゆえに、高官たちは罰を与えざるを得なかった」とコメント。「あそこにいたのは自分なのだから、自分がなんとかすべきだった」と語ったということです。

動画はこちらから。
Emergency Landing on Cargo Ship by Sea Harrier – YouTube


ソース:Alraigo incident – Wikipedia


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