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ガメラ3 イリス覚醒

1998年7月


 
7月1日(水曜)

 9時開始。

 「ガメラの墓場」に使用するマリンスノーの合成素材を水槽で撮影。
水槽にエアロジル(FRPの増量材で白い粒)を入れ、ポンプでかき回す。

 17時終了、しかしこんなカットに8時間かけていいのか?

 続いて渋谷パンテオン前のガメラの着地に合成されるガラ飛ばしを撮る。
 遠景用と近景用の2パターンが必要である、コンパネの裏に弾着を張り付け上に石膏板、ホコリ、土砂等を載せて弾き飛ばしまず遠景の撮影を行う。
 近景になって我々が石膏ガラ等を載せ始めたところ監督が美術部から取ってきたらしいパイプ、フレキシブルチューブ等を持ってきて、これは地下に埋設されていたガス管であるとか電話回線である、とか言いつつ嬉しそうに並べ始める。
 臓物いっぱいのガラ飛ばしとなる、どちらも一発OK。

 続いてこのカットの頭に合成されるガメラの噴射の余韻を取る。
 液体窒素を上空から撒いた際の金属バットから流れ落ちる冷気がそれらしかったと監督が言うので、大工センターに行き大きなバーベキュー用の金属トレーを買ってくる、これを空中に固定して液体窒素を流し込むと底から盛大に冷気の白い煙が発生する。

 ガメラの足のフレームインに合わせ圧搾空気で煙を乱し何パターンか撮る。

 22時30分終了。

7月2日(木曜)

 9時開始。

 空中戦用合成材料としての雲の撮影。
 雲はドライアイスマシンで発生させる。
ドライアイスマシンとはドライアイスを熱湯に投入して煙を出す機械で、歌番組等でその効果を見たことがあると思う)
 2間×2間の黒幕を30度ほど傾けその上にドライアイスの煙を流し、縦位置、横位置各種パターンを撮る。
 
 夕食後、雲海を割って浮上してくるガメラのセッティング。
 1/1ガメラを上向きに移動車に固定し、その上方から液体窒素を滝のように流し落とす、移動車を押して滝の裏からガメラを押し出すとガメラに当たった液体窒素は激しく発煙し後方に流れ去る、それを真俯瞰で撮ると雲海の下から雲をひきずりながら浮上してくるガメラになるというものだ。

  私の知る限り本邦初公開の技だと思う、宮崎駿が「ナウシカ」「ラピュタ」等でやっている「雲海のチェイス」の実写化と思えばよい。

 「ナウシカ」といえば、あのあまりにもかっこいい巨神兵レーザー(庵野氏が担当したとして有名なカットだ)を一度実写でやって見たいと願っていた私は「ガメラ2」の戦車隊全滅の大爆発でそれを実現出来てひじょうに嬉しかった。
 
 今回のガメラ浮上もCG扱いかと思っていたところ「なんとか実写でいけませんかね?」ということになったのは大変に喜ばしい、物理的制約のなかで宮崎アニメに迫るというのは野心的なことだと思うからだ、方法論を考えるのは大変だが、新しい手法を考案し実行することこそ操演の醍醐味である。

 (実際操演の仕事というのはその8~9割ほどはかつてやったことのある作業の繰り返しであり、新しいことを試すチャンスというのはそう多くない、ましてや真に挑戦的なことなど滅多にない、樋口組が楽しいのは樋口真嗣が特撮監督としてまだ新人に近いことにあるだろう。
 氏は特撮助監督というものを経験していないので、ある効果はこういう技法で撮る、という思いこみがないのだ、ベテラン監督になると操演部に「自分の欲しい効果」とともに「実現するための技法」までも指示してくる、それは間違いはないかもしれないが、特撮に新たな地平をもたらすこともない。
 「監督の言うような事ってどうやったら撮れるんだろう?」 とスタッフが悩むようでなければ新しいものは撮れないのだ)
 
 とはいえまったく新しい自分のアイデアのもと全員をある方向に誘導する、というのはスリリングだ、長い準備をしたあげく結果うまくいかないとなると予算・スケジュール等に大ダメージを与えかねないからだ。

 だいたいのセッティングが出来たところで、一度テストしてみる。
 予想どうりのカッコ良い絵が撮れそうである。

 というところで本日は終了、22時。

7月3日(金曜)

 9時開始。

 前日の続き、仕掛けはすでに終っているので、ガメラの直し(これは「ガメラ2」の飛び人形を改造したものだ)ライティング、ブルーバックを床に敷く作業等が中心である。
 本番開始となったのが15時、タイミング等あれこれと変え4テイク撮ってOK、今回始めてやってみた技法のわりには、問題もなく充分に斬新かつ迫力ある絵が撮れたと思う。

 つづいてイリスが雲海に飛び込む際の飛び散る雲の素材撮り。
 奥で3間 手前で1間半、奥行き2間半、という扇型のプールを作る、深さは1尺5寸、ここにドライアイスの煙をため高圧空気で吹きとばす。

 テストがなかなか決まらず、OKが出たときは300Kg買ってあったドライアイスがほとんどなくなりあと2回くらいしか出来ないというクリティカルな状況であった。

 22時終了。

7月4日(土曜)
 
 9時開始。

 6月21日の渋谷地下街の柱折れのリテイク、今度は柱を弱く作りました、と美術部が言うが「どれだけ弱いか」は当の美術部にすらわからない、やってみなければわからないのだ、やってみなければわからないことの実行責任者になるのはイヤなものだがこれも仕事である。

 3テイク分あるというので1本目はともかくテストくらいのつもりでいくことにする。
 足場を作って私が上にあがり柱にひねりを加える係になる、柱の上には鉄骨が渡してあり左右で2人の人間がそれを押し下げる、叩くよりはなめらかに壊れてくれるのではないか?
 ともかく一回目の本番、1.2の3でやってみると柱はまるでウエハースで出来ているかのようにクシャッとつぶれてしまった、これはNGである。

 これくらい弱くなっているのなら一人で出来ると思い2回目は私ひとりでひねり、かつ押しつぶすことにする、制作担当者が「個体差があるかもしれないのでよろしくお願いします」などと不吉なことを言う。

 2回目の本番、ひねって押して、適当な所で止める。これでもやりすぎたかな、と思ったがOKが出る、私としては??という感じだが、もう一度やってもうまく行く気は全然しないので何も言わない。

 17時、空中戦の合成素材である流れる雲の撮影、ドライアイスをジェットファンで横に流したものを撮る、技法的にはよくある(枯れた)もので問題はない。
 液体窒素がまだ余っていると言うと、当然のように樋口真嗣はそれも流してみましょうと言う、これは始めての試みだがデイティールがドライアイスより細かく、面白いかもしれない。

 21時、パチパチ君の追加撮影、合成作業が始まったのでこんなサイズでこういう位置にこういう素材が欲しい、と言う要求が出始める、フルサイズで撮った汎用の素材を位置合わせして合成するより、決め打ちで撮ったほうが後処理が楽なのだと言う(合成大魔王、松本 肇氏談)

 22時、「プラズマ火球から逃げる空中のギャオス」に合成される街あかりのフレアーを撮影する、フレアーとはフレームの外からくる光で画面の一部が明るくなる現象のことである、夜空(のつもりの黒バック)の下から、色付きのフレアーが差し込んでいるとその方向にネオンの明かりもまぶしい渋谷の街があるように見えるわけだ。

 このままだと送りになるので操演部さん帰っていいです、とチーフ助監督神谷が言う、たしかにこれは撮影部と照明部だけで撮れるカットではあるのだが普通こういうことは言わない、貧乏がいかんというべきか、タクシー代が18000円もかかる私が悪いのか。

 22時、撮影は続行、操演部は終了。

7月5日(日曜)

 撮休。
 
******** 第6週 *********


7月6日(月曜)

 9時開始。

 V-SHOPからイリスの搬入、大橋君を入れての着付け、監督チェック。
 あれこれと直しが出る、最終仕上げは大映で行うという予定だったのだが「こんなに直しがあってはここでは出来ません」と持ち帰られてしまう、神谷はスケジュールが狂った! と叫んでいるがTVのウルトラ怪獣だって直しは必ずあるのに天下のガメラで1発OKは出ないでしょう。

 さて撮影。

 空中戦の前、F-15のコックピットの向こうに顔を出すガメラの撮影、ガメラはギニョールである、その向こうに見える僚機はプラモデルによる操演である、操演クレーンを使ったミニチュア吊りがガメラ3にあるとは思わなかった、このカットの前後はガメラ、イリス、F-15もすべてCGなのにマッチするんだろうか?

 操演的にはF-15のクレーン振りとバンク、FOG流し、古典的操演技術である。

 18時終了。

7月7日(火曜)

 9時開始。

 今日からイリスの撮影に入る予定だったのだが、ダメになったので急遽素材撮りとなる。

 ガメラの手に当たった超音波メスの素材、監督が水がはじけているようなイメージ、と言うので、園芸用の散水ノズルをタンクに接続し圧力をかけて水を送る、それを直径15センチくらいの塩ビパイプにぶつけてみる。

 はじけ方はあまり均一でなく、というので塩ビパイプにガメラのラテ皮(ガメラの皮膚のデイティールがついているラテックスの皮)を巻き、手でノズルを微妙に振りながら撮影する。

 15時、窓外でガメラがプラズマ火球を発射したため吹き飛ぶ窓ガラスの素材撮り、本隊が撮影した喫茶店内に合成されることになる。

 金網を3×6尺の枠に張り、その上にアクリル、シリコン等で作ったニセガラス素材を並べる、それらを下からエア砲で吹き飛ばす、とりあえず2台のエア砲を金網から30センチほど離してセットし45気圧ほどかけて発射してみるとガラス素材は数メートルほどキレイに飛んだ、これを3枚の窓ガラス用に正面、右用、左用と撮影する。

 18時終了、無理して入れた素材撮りだけに早く終わってしまった。

7月8日(水曜)

 9時開始。

 京都駅に向かって急降下していくガメラの寄り、雨の中だが雨を追い越すスピードなので前から雨が来る、上向きに雨は降らせられないので天地を逆にする、ガメラを上向きに、その上にジェットファン3台をセットする、口にはプラズマ火球用のハロゲン球が入っているので実際には雨はカメラとガメラの間に降らす、ガメラをローリングさせるためターンテーブルにギニョリスト(ギニョールを操る人)である助監督を乗せて回す。

 ターンテーブル、ジェットファン、FOG、口から出る息(これはドライアイスのホースを仕込む余地がないので四塩化チタンを塗る)が操演の仕事、口の電飾は照明部、雨は特機部である。

 17時、プラズマ火球に巻込まれて木っ端のように舞い飛ぶ人間の素材、ナパームに合成されるものだ。
 一番手前は本物の人間を吊って本隊が撮る予定だがこれはそのバックにあたる、ゴミのように見える人間らしき影、ということで人形を投げる。
 GIジョーとかリカちゃん人形とか市販のフイギュアをいろいろと投げる、ランドカルレシアン、ウイノナライダーなども混ざっている。

 21時終了。

7月9日(木曜)

 9時開始。

 空中戦、ガメラを狙うイリスの触手、コンテでは2本の触手が並んでレーザーを撃っているだけだったが、監督の演出はまず奥の触手が下から踊りあがるようにフレームインしてくる、と次に手前の触手がカメラ上からフレームイン、両者並んで下手下を狙って超音波をメス発射する、ということになる。

 飛翔感を出すためカメラはクレーンに乗って後退移動しようという話にもなる、チーフ助監督神谷「なんでこういう風になんでも複雑にしようとするかなぁ」と言っておかんむりである、要素ひとつ足すことで撮影時間が倍増することもあるからだ。

 さて触手というのは鬼門である、はっきりいって「うまくいかない」、我々のイメージにある触手というものは空中を蛇のようにうねって進んでいく、それを実現するためには吊り点が移動していかなくてはならないがそんな事は出来ない、つまり操演された触手は(怪獣の尻尾もそうだが)いつも「同じ部分がもちあがる」ので吊っているようにしか見えないのだ。

 にもかかわらず今回の新怪獣イリスには4メートル以上ある触手が4本も付いている、吊っているんだから吊っているように見えるのはしょうがないじゃないか、というのは樋口組では許されない、そこで作られたもののひとつが釣り竿入りの触手である、バランスさえよければ根本のしなりが先端まで伝わっていいうねりを呼ぶ、ウルトラマンティガの時にやってみてうまくいったものの応用である。
 
 しかしなんとなくうねっているのならよいのだがこのカットのようにうねったあとピタリと止まって狙いをつける、というのには向かない、放っておけばいつまでも震えているからだ、手前の触手は先端のアップなのでうねる必要はなく「固い」触手が使える、「奧も固いのじゃダメ?」と監督に言ってはみたが当然却下される。
 
 手加減ひとつで勢いを殺し、予定された位置の予定された角度に固定しなくてはならない、何度もやって偶然うまくいくのを狙うという撮影になるのは目に見えている。
 人にまかせてNGが続くと自分でやったらうまくいくんじゃないのか? と思ってイライラするので自分でやことにする。

 17時までかかる、予想されたことではあったが14テイクを要した。

 次ぎもやはり空中戦、イリスと触手を撮るはずであったが、使う予定のイリスのギニョール(これは造形部内製だ)に直しが入って完成していない、しかたないので夕食を早めて時間稼ぎをする(定時より早く食事にするのを「早メシ」と言う、遅くなるのは「メシ押し」だ)

 しかし夕食後も延々と直しは続く、21時ついにチーフ助監督神谷は撮影を断念する。もっと早く判断できんのか。

7月10日(金曜)

9時開始。

 昨日の続き、イリスのギニョールは助監督菊池が担当する、奥の触手をモノレールで突き出す。

 17時、更に空中戦、ギニョールのガメラがギニョールのイリスに体当たりする、監督が衝撃を現す「なにか」が欲しいと言う、なにかってなに?

 樋口監督はかつてレギオンの赤いムチが当たった効果を「タイガーマスクのチョップが当たった感じ」と言った人である、(それはアニメの効果線だってば)
 樋口演出はその要望がきわめて具体的でありながら、時にその例が不適切であることも多い、ここでもちょっと警戒してしまった。
 
 (話はそれるがそのようなわけで樋口組のスタッフにとって、過去のTV・映画の素養は必須である、打ち合わせの最中にイメージの参考例として過去の作品の名前が飛び交うからだ、特撮、アニメが多いのはもちろんだが一般映画もひととおり見ていないと話ににならない、今回初めて参加した制作進行の星野君はマニア属性が薄いらしく、あるとき「みなさんの打ち合わせを聞いていると言っていることの大半がわからないんですけど、僕は樋口組でやっていけるんでしょうか?」とマジで相談されたことがある)

 ドライアイスを砕いたものをエアで飛ばしたらどうか?、と言うので(妙に具体的だ?)急遽ドライアイスを買いに走らせる、しかしやってみると細かいドライアイスは瞬時に気化して炭酸ガスを吹いているのと変わりない、大粒にすると単に白い粒が飛んでいるだけのように見える、全員???という感じだが監督ひとり「これこれ、こんな感じです」などと言う、どうみても全然「感じ」じゃなく思えるのだがドライアイスを主張した手前ひっこみがつかなくなったのではないか?「企画倒れ」なんて冷やかす奴がいるからいけないのだ、誰だ、俺か?

 22時30分終了。

7月11日(土曜)

 9時開始。

 やっとのことイリス完成、動き、電飾のテストを行う。
 普通「怪獣」は造形会社が製作し完成品として納品されるのだが今回電飾の仕込みを照明部が行っている(イリスは電飾が17個も入っている)予算と時間の無さをカバーする方策である、たしかに照明部のほうが機材もテクニックもあるのだが私は疑問に思っていた。
 「ガメラ1、2」ではガメラ飛行形態の噴射の仕込みやレギオンの骨組み、触手の仕込みを操演部が担当したが、これは操演費とは別に予算を組んでもらって納品という形をとっていた、これは本来操演部の仕事ではない、という意思表示でありまたこれに関しての責任はうちが取るという意志表示でもある。

 (造形会社やモデルメーカーは会社の成り立ちや構成員の性格からして形の善し悪しが第一に気になるもので、仕掛けは二のつぎに三のつぎということが多い。
 良心的な会社はそれを承知していてメカを外注したりするが、仕掛けとは言えないようなものを持ってくるところもある、「あとは操演部さんなんとかしてください」というわけだ、しかし時にはどうにもならないものや、「何とかするにはそれなりのお金がかかるもの」があったりする。
 そもそもその作り物は仕掛け込みの値段で受注しているわけで、使えない仕掛けの後始末を操演部にまかせるということは、仕込み予算をタダ取りし、操演につけまわししているということになるわけなのだ。
 お金の問題はさておいてもそういう風に仕事をしていると、仕込みが壊れたときの責任はどこにあるのか、とか保守点検は誰の担当かとか、消耗品はどこの予算なのか、などでもめてしまう原因にもなる、「金はもらう、責任は取る」というのがプロの道であろうと私は思うのだ)

 さてしかし今回、照明部は照明作業の一環としてしかこれをとらえていない、大丈夫かいね?と思っていたところ案の定ランプこそ手際よく仕込まれているものの17回路分のコードが背中からズルズルと垂れ下がっている(さらに頭をうごかすラジコンの受信機電源とサーボモーターの電源コードが2本ある)

 いったいこれどうするの? という有様であるが誰かがどうにかする気配がない、つまり照明部にはもともと「バレ隠し」(見えてはいけないものを見えないようにする、もしくは見えても変じゃないものにカムフラージュする)という概念がない、V-SHOPは照明に関することは照明部におまかせ、というつもりなのだ。

 よそ様のお仕事に口は出さないというのが私のポリシーなのだが、このまま撮影に突入したらえらいことになるのが目に見えている。
 (怪獣映画の常識でいえば、カットが変わるたびに怪獣の見えない側にコードを這わせ、ガムテープで固定することになる、しかしたとえば弾着等の火薬があるときに2.3本のコードを隠すだけでもけっこうな作業量であることを考えれば、全カットで19本のコードを隠し続けるというのが現実的でないことは明らかだ)
 そこで介入を決意する。

 、まずチーフ助監督を前面に立てる、神谷に「このコードをなんとかしないと撮影にならないと思いますがなんとかなりませんか?」とV-SHOP、照明部に言ってもらう、スムーズな撮影のための段取りは演出部の責任範疇なので角は立たない。
 「実はそこまでは考えてなかったのですが・・・」と双方口を濁すところで「操演部にアイデアがあるそうなので聞いてもらえますか」と出る、当然否やはない、そこで「コードをボディ内部で丸形の多芯ケーブルにまとめるというのはどうだろう? 1本あたり0.5スケアもあれば容量は充分だし、20芯のものが2本あればOK、2本にまとまっていれば隠しやすいし、丸形なのでこれを触手色に塗っておけば最悪見えてもそういうものだということになる、どうしてもという時は1本づつ足に通せば良い」というアイデアを披露する。

 そりゃいい、ということになるのは当然なのだが、じゃあその多芯ケーブルってどこで売ってるの? いくらくらいするの? どこの予算になるの? 誰が買いにいくの? 誰が作業するの? という話になる、双方ふたたび互いに牽制し始めるので(この何日か双方ともイリスの直し、仕込みにおおわらわで、もうそろそろ面倒な作業からは手離れしたいという気持ちはわかる)
 ここまで介入したからには最後まで仕切るしかないと思い「照明機材に関わることなので接続、配線は照明部がやるべきでしょう、一方仕込みをどこがやるにせよコードの逃がしの問題が生ずるのは当然でそれをどうするか考えておくべきだったのは造形部でしょう、多芯ケーブルの使用によってそれが解決するのならその予算は造形部が出すべきでしょう」と意見する、実に偉そうである。

 売っている所がわからなければ、ケーブルは買ってきてあげよう、とも言ってしまう、ここまで口を出してあとは知らないとも言えない、実際今日は照明、造形テストの日で彼らの手を割くわけにはいかない一方操演部は開店休業状態なのだ、それにまあ電材屋は秋葉原にあるのでつまらないお使いでもない。

 いろいろなテストが終了したのは23時5分前、あと5分で送りだったのだが(!)

 7月12日(日曜)

 9時開始。

 京都の街に着陸するガメラ、今回の見せ場のひとつである、低空で飛んでくるガメラをカメラは正面から捉え、後退移動する、両脇は古い京都の民家、両翼張り出し状態のガメラが姿勢を変えて逆噴射、両足で着地すると民家をなぎ倒しながらすべって来て停止する、というカットである。

 飛行姿勢の時のガメラはCG、逆噴射をカメラに向かって吹いたところで白煙つながり、煙が晴れると着ぐるみが地面をすべってくるという予定である、前半はCGガメラが合成されるため、空はブルーバックで撮影する、着地後は空、着ぐるみ込みの1発撮りである。

 今日は後半の撮りきり部分の準備である(後半だけで2日の予定が組まれている、前半の分と合わせれば何と1カット4日と言うことになる)
 絵でかけば簡単だけど実際にはどうにも、といういつもの問題が操演、撮影、美術、特機部に山のように降りかかる。

18時終了。

******** 第7週 *********


7月13日(月曜)

撮休。

7月14日(火曜)

 9時開始、土曜に始めたカットの続き。

 画面を覆った噴射の煙が晴れるとガメラは着地していて、地面をすべり民家を破壊しつつ前進してくる。

 まず路地を抜けて後退移動していくカメラ用の移動車があり、ガメラが乗る移動車がある、こちらはカメラ用レールを挟んで2本のレールを敷き、レール1本に2つの台車を置き、4つの台車をつないでガメラのお立ち台を作ってある。
 
 ガメラが前進してくると民家を破壊することになるわけだが壊し用民家を作る予算はない(貧乏!)ので「ガメラが近付くと逃げる」ことになっている、カメラは仰角に構えているわけで手前の民家は遠ざかるとフレーム下に消えていく、民家は横向きの移動車に載っていてガメラ接触する前に左右に逃げることになっているのだ。
 しかしこれは調整が難しい、カメラの仰角が大きいとフレーム内のガメラが小さくなって迫力がない、といって浅く構えると「逃げ用民家」のフレームアウトが遅くなり、逃げが間に合わなくなる、ガメラが民家と激突するか、「逃げて行く民家」が見えてしまうのだ。

 操演部的にはまずガメラ移動車に逆噴射の炭酸ガスノズルを2ケ取り付ける。
 ガメラが地面を削っていく効果でほこり出しタンクを2ケ取り付けて足元から吹き上げる。
 民家を壊して行くという設定なので火薬によるガラ飛ばしを置く。
 
 セッティングが済んでやれやれと思っていると監督が寄ってきて最後にガメラが止まった時に土を大量にカメラに向かって飛ばしてください、と言う、そこでガメラの足元に皿を固定し5分玉2個を仕込んで土飛ばしを仕込む。
 
 やれやれと思っていると監督が再び寄ってきて最初の噴射の煙の中にガラが飛んでいたいと言う、着地ですでに民家を破壊しているというつもりなわけだ、試しに炭酸ノズルの中にバルサ片や黒スチロール屑を詰めて撃ってみるがこれは見えない、そこで外部からエアでガラ飛ばしをすることにする。

 やれやれと思っていると監督が三たび寄ってきて、滑走しながら電線を切っているということで足元のホコリに火花を加えてくれと言う、そこでホコリのノズルにチタン合金の火薬を取り付ける、屋上屋を重ねるというか、事態は常に複雑の一途をたどる樋口演出の真骨頂である、正直監督が寄ってくると又々要素が増えるのか!とビビる思いである。

 日曜のうちに動きと飾りが決っていたはずなのだが、夜になっても始まらない、こりゃまずい、なにしろ明日は「相模湖ピクニックランド」ロケーションなのだ。

 ロケは陽のあるうちにしか撮れないということももちろん、向こうの担当者の都合もあるので朝8時出発は決定しているのだ、そして各パートとも今日の撮影終了後に明日の機材の積み込みを行なわなくてならない、その機材は今のカットで使用しているものも多い、2日かけたセッティングを無駄にするわけにはいかない以上、「今日は何時になっても撮りおえる必要があり、その時刻のいかんにかかわらず明日の開始時間に変更はない」のだ。

 そろそろ行きましょうか、という声がかかったのは22時であった、そこで始めてガメラ人入りテストが始まる、テストをすれば当然いろいろと直しが入る、本番行きましょうという声がかかったのはすでに日付けが替わった後であった。

 要素満載なので当然NGは続出する、時計を見るのが怖い、私は大映8時出発なら6時起きである、午前1時に終り30分で積み込み、1時間で家に帰れたとして(そんなわけはないが)睡眠時間は3時間だ、しかも1時には終わりそうもない。

 暗~い気持ちになっていると制作部梶川氏寄って来て、今日はお泊まりでどうですか?と言う、実はタクシー代が莫大な私を制作部はいつも泊めたがっている、ホテル代なら半分以下で済むからだ、原則として私は常に家に帰るのだがこれでは帰る意味がないので仕方ない。

 結局2時終了、操演部は速攻で積み込みを完了する、まだ各部はバタバタしているが我々は解散、私は梶川氏に調布駅前のビジネスホテルへ送ってもらう。
 これからまだまだ仕事があり明日は誰よりも早く来る必要のある梶川氏、ゆっくり休んでください、と言ってスタジオへ戻る、こういうところはどこの制作部も同じだがまったく頭が下がる。

 お泊まりの準備をしていなかったので、フロントでコンビニの場所を聞いて、パンツなどを買いにゆく、「靴下500円、Tシャツ800円、あとパンツ、あったあった」と買い物かごに放り込んでレジに向かう、3300円です?! なに~と思ったらパンツが2000円もするブランドものであった、そんなものコンビニに置いておくなよな~。


7月15日(水曜)

 8時出発、スタッフの誰よりも睡眠時間の多い私が余裕でスタジオ入りすると皆死にそうな顔をして集まって来る(映画屋は多分他のどんな業種とくらべても時間に正確な集団であろう、ロケの場合ひとり遅れても全員、時には何十人、を待たせるハメになるからだ)

 調布から高速に乗って相模湖東インターへ、この相模湖ピクニックランドというのは広大な敷地に山と森がありキャンプ、バーベキュー、テニス、マウンテンバイク、サバイバルゲーム等を楽しめるアウトドア向けのレジャー施設である、我々はそこのグラウンドを借りているのだ。
 ここで撮るのは奈良山中という設定のデイシーン、今回特撮はほとんどが夜で日中昼間というのはこの数カットしかない、そのためだけに青空ホリゾントを塗るのがもったいないということと「太陽光で撮るオープンセット」というのが樋口組のウリであるということで借景ロケ(実際の風景を背景に使う)ということになっているのである。

山が迫っているグラウンドの端に植木を置いてセットを組む。

 しかし、せっかくのオープンであるが天気が悪い、ナイターばかりのセットから脱出して、晴れた青空のもと、さわやかな山の空気を吸いながらお仕事が出来るとこの借景ロケを楽しみにしていたのだがはっきりいって小雨模様である、寝ころんだら最高だと思われた草のグラウンドもぬかっている、そのどんよりとした雲の下、顔色の悪いスタッフが意気もあがらず仕事をしている様は気持ちを滅入らせるに充分である。

 しかし、デイシーンのロケのいいところは陽が暮れればおしまいということだ。
 2カット回して18時終了。

7月16日(木曜)

 今日もロケで8時出発・・・のはずであったが、朝から雨でロケ中止、そのままセットに入る、何のことはない開始時間が1時間早まっただけである。

 京都に着地したイリスが町並みの向こうで身を起すカット、あたりは台風による暴風雨である、当然ミニチュアに雨を降らせることになるが昔から水と火はミニチュアにならない、という言葉がある、霧吹きのノズルを工夫することによって空中の雨粒は小さくなるが物に当ってしたたり落ちる水滴は普段見知ったサイズになってスケール感をそいでしまうのだ、そこで今回はアルコールを降らせることになっている、アルコールの水滴は水より小さくなるからだ。

 問題は防火対策である、ヘタをすれば噴霧器は火炎放射器になりアルコールで濡れたミニチュアセットは薪のように燃え上がり、気化したアルコールが充満したセットが爆発しかねない、並の爆発シーンより防火対策は慎重である。

 着地の雰囲気が必要であるが雨の中なので水ケムリということで液体窒素を使うことにする、ガメラの噴射の余韻としての煙と差をつけるべくいろいろとやってみる、結局バットに入れた液体窒素に園芸用の噴霧器で水を噴射すると水っぽい煙になることが判明する。

 22時30分本番、つづいて同ポジ(同ポジション=カメラの位置、アングルが同じということ)で撮れるイリスの歩きのカットを撮ってしまうかと思えばチーフ助監督神谷、本日終了を宣言する、朝1時間早く始まったこともあり(昨日のダメージが完全に抜けていないこともあり)スタッフが疲れているからだと言う、私としてはここで電車で帰るくらいならあと1時間やってタクシーで帰して欲しい(!)くらいなのだが。

7月17日(金曜)

 9時開始。
 
 昨日の続き、イリス手前に歩いて来る、ガラ飛ばしがあるがアルコールの雨降らしで火薬は使えない、エア砲を使用する。

 昨日のままでいけるカットだったので昼前に回る、もっとも1晩あいたおかげで1時間で撮れるはずのものが3時間かかったとも言える。

 つづいて雨の中、イリスを睨むガメラの寄り、雨を直接かけるとこれも水滴がばればれになるので圭砂を仕込む、水のミニチュアとして砂とか塩を使うというのは昔からある技術である、古くはウルトラセブンでウルトラホーク3号の発進のシーン、基地の内引きから見た滝は塩だという、「レイズ・ザ・タイタニック」で浮上したタイタニックのあちこちから流れだしているのは塩だという、「ゴーストバスターズ」でマシュマロマンが壊した消火栓から吹きあがる水柱は砂だという、「ガメラ2」でミニチュアの消防車が放水しているものは圭砂である。

 口の端から水が筋になって流れだしている、という思い入れで口から圭砂を流しだすのだ、通常ホコリ出しに使っているタンクに圭砂を入れエアで送り出す。

 17時、いざ本番と言うときに監督が「ガメラの口もう少し閉まらない?」と言う、確かに以前と比べると閉まりが悪い、これは圭砂出しのホースのせいか?と思いせっかく仕込んだホースだが一度はずしてみるがダメである、どうもメカそのものに問題があるらしい、ガメラは造形部の内製だが口の開閉メカは外注である、担当者を呼べるかどうか聞いてみようということになるが今日の今日、今の今ではどうにもならない、結局このカット後回しということになり午後いっぱいの作業がパアになる。

 しかたないので夕食後は、ガメラを睨むイリスのカットということになる、似たような状況でやはり圭砂仕込みなどある。

 こちらは特に問題なく、22時30分終了。

7月18日(土曜)

 9時開始。

 イリスの別パターン、監督寄って来て昨日の液体窒素残ってますか?と言う、手前で雰囲気として出したいのだと、余っているのでかまわないようなものだがなんの「雰囲気」だかよくわからない。

 14時本番、ガメラが直ったので昨日のカットに再挑戦、一度本番寸前までいったカットなので比較的早く進む、17時。

 夕食後イリスの顔のアップ、望遠圧縮のかかった絵ということで800ミリの望遠レンズの付いたカメラが大戸(スタジオ入口の大きな扉)を抜けて外へ出ていく、このためこのカットは夜しか出来ないのだ。

 圭砂出し、顔の前をよぎる触手を2人で左右から振る。

 24時終了、送り。

7月19日(日曜)

 9時30分開始。

 はじめに雲マシーン(正式名称「パニーライト」)による、合成用雲素材の撮影。

 13時より炎上する京都市街の遠景、燃やせるミニチュアが無いので(貧乏!)並んだミニチュアの向こうにプロパンバーナー、火皿、炭による火の粉出し等を並べる、手前は黒スモーク、FOGメーカーによる煙出しをライティングして燃えている感じを出す。

       *     *     *

 山梨より「鉄塔少年」が現場見学にくる、この「鉄塔少年」とは小学校4年生でミニチュアマニアなのである、先月「大映ガメラ様」宛で手紙を寄こしたのだがそれによると彼は大のミニチュア好きで10畳ある自分の部屋に新宿副都心を再現しており今やベッドも机も置けなくなっているのだという(写真が添えられていたがそれは圧巻なものであった)
 その彼が先日「ガメラ2」を見たところ「鉄塔に張られた高圧電線が煙をあげてもえあがるカットがとてもかっこよかったのでビデオをダビングして(おいおい)何度も見ています」と、そして「自分でも鉄塔を作ろうと思って竹ひごをろうづけしてみましたがうまくいきません、傘の骨を使ってみましたがうまくいきません、どうしたらよいのか教えてください」ということなのであった。

 その手紙にはガメラともレギオンとも、そもそも怪獣という言葉が見あたらないことから見て彼は完全な「ミニチュアマニア」であるらしいのであった。

 鉄塔好きでは人後に落ちない樋口監督(世の中には少数ながら常に「鉄塔マニア」という人種が存在する、それが空を睨んで立つ孤高の人というイメージを持つためか、シンプルな機能美に惚れ込むのか余人にはうかがいしれない)がさっそくに返事を書き、そのうち現場見学にいらっしゃいと言ったのが実現したのだ。

 スタッフ一同どんな子供があらわれるか興味津々で待つところ、鉄塔少年登場しスタジオに入るや入り口近くに待機しているガメラとイリスの着ぐるみには一瞥もくれず京都のミニチュアに駆け寄ったのを見て一同うんうんとうなづく、なんか嬉しい。

 ひととおり見たあとデザイナーの三池氏「電柱の作りかた」を懇切丁寧に説明し始める、鉄塔少年は当然「碍子」を知っている、三池氏「碍子はひとつ作ってあとは型どりするんだ、型どりってわかるか?、知らない?じゃあ作業場で見せてあげよう」といって彼を連れてスタジオを出ていく、一同「そこまで専門的な話をせんでも・・・」と言いつつ見送る。
 
 とまれ、彼のために今日が夢のように楽しい一日であることを望む、付き添いのご両親と妹ふたり(がいるのです)にはまったくに退屈な一日であったろうけれども。


******** 第8週 *********

7月20日(月曜)

撮休

7月21日(火曜)

 8時出発、相模湖ピクニックランド、ロケ。
 今日こそ晴れである、青空の下緑に囲まれての撮影は気分がよい、予定は4カット、奈良山中、山あいにひそむイリスである。

 晴れとはいえ雲が少々出ていため刻々と変わる天候にバランスを取る照明部は大変のようだ、一方操演的にやるべきことはホコリくらいなもので、助手連にまかせた私は一日セミの声を聞きながら昼寝をする、まあたまにはこんなこともなくっちゃ。

 18時終了。

7月22日(水曜)

 9時開始、濡れた路面に映るガメラとイリスの格闘。
 
 手前に1メートル角ほどのアスファルト舗装のミニチュアを置き、そこに水たまりを作る、壊れた傘、飛んできたステ看板等も置かれている、奥で2体の怪獣のギニョールが激突する、その向こうは炎上する町並みの空ということで、火皿とガスバーナーを置く。

 3時本番、次のカットにいく前に明日の「新幹線ホームに倒れこむガメラ」のテストを行う、AACから補助数人とマットが来る。
 イリスに押されたガメラ八条口側から新幹線ホームを突き破り、仰向けで線路側に倒れこんでくる、どういう足場が必要か、うまく倒れられるか、キケンはないか、カメラアングルはどこか、一度しか出来ないカットであるために問題があるなら前日に洗い出そうというわけだ。

 尻尾を逃すスペースを股の下に作る必要があること、少し高いところから倒れ込まないとうまくミニチュアを壊してくれないだろうこと、クッション等はなくとも大丈夫であることなどが判明する。

 撮影はビルの谷間を格闘しつつ通過するガメラとイリスのカット。

 炎上する町の煙と足もとのガラ飛ばしを仕込んでいると監督寄ってきて液体窒素お願いしますと言う、液体窒素は監督の中で怪獣映画の決まり事である足もとのホコリとかの「雰囲気」と化している気配がある。

 「決まり事」であれば毎日でも用意すべきなのだが、液体窒素は操演予算がフィックスした後になって出てきたアイデアで予算的に計上されていないのが困ったところである、本来のセメント等と違って高価であり(セメントなら1体900円で2~3体あれば映画1本撮れる、液体窒素は1リットル1000円で、1回15リットルずつ購入する)使わなくとも数日で揮発してしまうからだ。

 「監督が予定外の注文を出してきた分追加予算ください」と言ったところでプロデューサーがうんと言うわけは無い、「使うか使わないかわからないけど用意しておく」というわけには行かないのだ、「打ち合わせに無かったものはいつもあるとは限らないよ」という牽制を込めて、毎回監督から注文されるまで用意しないでいるのだが牽制の効果はあるのかな?

 22時30分終了。

7月23日(木曜)

 9時開始。

 新幹線ホームに倒れ込むガメラの本番「ひょっとして怪獣が建物壊すのって始めて?」と監督が言う、東急東横店を崩すカットはあったがあれはすでに破壊され炎上していたもので、まともな建物を一から壊すのは確かに始めてである。

 さて新幹線ホームというのはたいていそうだが風よけのガラス壁がある、ガラスというのはミニチュアの鬼門のひとつなのだ、見せるだけならなんということもないが壊すとなるとなかなかうまくいかない、もともとガラスというのは薄いので25分の1のミニチュアだからといって25分の1の薄さにはならない、相対的に厚くなってしまうので割れないのだ、ビルが破壊されているのに地上に落ちたガラスが形を保っていたのでは興ざめというものだろう。

 一番いいのはアメガラス(スタント用の割れやすいガラス、昔は砂糖で作っていたのでこう呼ばれる、割れ方はガラスそっくりだがあまりにもろいので皮膚を傷つけることがない)だが、これは枠にはめる必要がある、新幹線のガラス壁はガラスだけで構成されているようなものなので使えない。

 そこで私が提案したのが「ガラス抜きで撮る」方法である、ガラスはそこに「映り込み」があるから認識できるのである、今回はナイトシーンでもあるしガラスをはめずともそこに偽の「映り」があればガラスがあるように見えるだろう。

 実際にはカメラ位置から見たら映っているはずの物を、ガラスのあるべき位置にWXP(ダブルエクスポージャー、二重露光)させれば、ガラスがあるように見えるだろうというものだ、そしてガメラが倒れんだ瞬間にWXPをやめ、ガラス片を別場所からエア砲で打ち出してやるのである。

 ここで難しいのはそのタイミングである、ガラス壁の枠がゆがみ始めた瞬間にWXPは破綻するのでガメラが枠に触れる瞬間にガラス片を打ち出さなくてはならない、打ち出しが遅れると一瞬ガラスが消え、その後にガラス片が飛ぶということになる、早すぎると何も起こっていないのにガラスが砕けることになる。

 監督と相談の結果「早すぎるぶんにはなにか飛んできたとも、衝撃波がきたともとれるけれど遅いのはごまかしようがないので気持ち早めでかまわない」ということになる。

 その他(見えてはいないが)八条口側の新幹線ホームを壊してきているはずなのでその雰囲気としてのガラ飛ばしを仕込む、ホームには電飾が仕込まれている(破壊と同時に消す)のでパチパチ君を大量に仕込む、監督が弾着による土の跳ね上げ(今回お気に入りのひとつだ)をガメラが倒れ込んだらカメラ前でやってくれというのでそれも仕込む。

 ガラ飛ばし=サード井上、パチパチ君=セカンド半田、エア砲=チーフ黒瀬、土飛ばし弾着=私、とそれぞれがスイッチを握って操演部は売り切れである、この順列は「重要な順」になっている。
 タイミングが一番シビアなのはエア砲だが、ガメラが倒れ込んだあとの土飛ばしは判断を要するので私が担当する、なにしろ福沢君は自分の胸ほどもあるミニチュアに背中から倒れ込んでくるのである、ミニチュアがどう壊れ、壊れたあとの瓦礫がどう積み重なるか誰にもわからない、そしてガメラの背中は丸いので最終的にどっちに転ぶかもわからない、火薬がどういうタイミングであるべきかは一瞬の判断によるしかないのだ、しかもガメラが倒れ込んだあとの土飛ばしというのはこのカットの幕切れになるべき効果である、「やってみなければわからない」に加えて「一回しか出来ない」クリティカルな状況ではとても怖くて人にはまかせられない(これを人にまかせるようでないと人は育たないのだが、そういうことはTVシリーズでやっていくしかあるまい)

 22時本番、なにはともあれ一回しか出来ないカットは好きだ、緊張感があるし、NGを出しようがないのですぐ終わるからだ(!)

 総体として芝居も壊れかたも各種タイミングもこれ以上は望めないほどうまくいったと思う。
 
7月24日(金曜)

 8時出発で相模湖へロケ・・・のはずがまたまた雨。
 そのままセットに入ってガメラの腹にスピアを突き刺すイリスのカット、スピアというのはイリスの腕についている槍状のもので、普段は後ろに延びているものがスライドして前に飛び出し、ガメラを突き刺すというわけだ。

 最初は突き刺す寸前の芝居まで、操演的には液体窒素の雰囲気とガラ飛ばしだけである。

 15時本番。

 続いてガメラの腹にスピアが刺さり背中に抜けるというカット、このカット用スピアが別あつらえで作られている。
 スライドパックとスライドレール(事務机の引き出しに使われている物)が仕込まれた飛び出し腕セットである、これを大橋君に装着する予定だったのだが、普段より長く作ってあるスピアは重くてとても狙いが定まりそうにない、そこでスライドパックを鉄骨に固定して画面外に逃げる、そしてこの鉄骨をモノレールで支える、大橋君はモノレールのガイドにそって腕を突き出せばねらいはOKということになる、スピア自体も画面外から補助の人間がスライドさせる。

 スピアが腹を貫通する都合上ガメラに福沢君は入れないので吊って立たせる、手も頭もピアノ線で吊って動かすことになる、スーパーマリオネーションである。

 22時準備途中で終了。

7月25日(土曜)

 9時開始。

 昨日の続き、造形部がガメラの腹に穴をあける、背中はカメラからは見えないので着ぐるみの搭乗口を開け放してそこからスピアの先を見せることにする。

 甲羅の破片がはじけ飛ぶということになっていたのでエア砲の仕込みをしてると監督寄ってきて(!)スピアの刺さった腹から緑の血を噴射したいと言う、「ガメラ2」でのレギオンの足ささりの再現か(エア砲で塗料を打ち出しているのだがあたり一面血の海になり着ぐるみの中もぐちゃぐちゃになる)と思っていると緑の粉がよいと言う、圭砂の雨が気に入ったのか?、そこで美術部からおがくずを緑に染めたものをもらってきてエア砲で打ち出す仕掛けをする、していると監督再び寄ってきて(!!)、背中で甲羅と一緒に臓物も飛ばしたいと言う、これはエア砲に一緒に詰め込むだけなので造形部に「臓物」を発注する。

 すると三たび監督寄ってきて(!!!)それと一緒に火が出たいという、ガメラの腹の中は火が燃えていて穴があくと漏れでてくるのだそうな、打ち合わせでは合成ということになっていたものだが現場で出来ないかと言う、そこでプロパンガスを仕込む、ガスホースの先に10φのパイプを付け、レギュレーター無しで吹くとちょうど良い感じである。

17時シュート。

 続いてもみあいながら駅構内を横断して京都駅ピルに迫るガメラとイリス、引きと寄り、長峰達の見た目の3カット。

 ほとんど同ポジながら夕食後3カットというのは樋口組には考えられない、しかし明日は福沢君が別な仕事が入っているため撮り切らなくてはならない(同ポジなだけに途中でやめるのは無駄が多い)

 監督、足もとの雰囲気になにかもうひとつ付け加えたいですねと言い出す、どうやら液体窒素とガラ飛ばしに飽きたらしい、そこで苦し紛れに圭砂でも飛ばしたらどうですかね、というと乗り気である、火薬でエアでとあれこれとテストを繰り返す、そのすべてに監督立ち会ってああでもない、こうでもない、こうしたらどうかと意見を出す、その精力と情熱に感服する。

 撮影は当然のごとくに大残業となり、翌4時30分に終了する、疲れた(が福沢君はもっと大変であろう)送りで帰宅。

7月26日(日曜)

 13時30分開始、グリーンバックでイリスを何カットか撮る、操演的には触手を動かす程度なので私は作業場で翌週の岩舟ロケで使う火炎放射器の準備をする。

 22時終了。

******** 第9週 *********


7月27日(月曜)

 8時出発、最後の相模湖ピクニックランドロケ。

 快晴、というとさわやかなイメージがあるが朝から刺すような日差しである、5年前、「ガメラ1」の夏がそうであったような、DNAがプチプチと音をたてて切れていくのがわかるような(?)強烈な太陽光線が降り注いでくる、普段スタジオにこもりっきりの特撮班には殺人的といってよい、おまけに前日の雨でぬかるんだ地面からはむせかえるような湿気がたちのぼり、不快指数120パーセントである。

 ここでは操演の出番はほとんど無い、イリスの触手の動かしがいくつかあるのだが釣竿で吊ったり投げ飛ばしたり、とレトロな技のオンパレードである(前者を「棒振り操演」後者を「ぶん投げ操演」と言い操演部を揶揄するネタとしてよく使われる技である)

 制作部がスタッフを慰労するとして昼はバーベキューになった、もともとそういう事を楽しむ場所なのでグラウンド脇でバーベキューが出来るようになっているのだ。
 しかし、弁当なら「食べ次第開始」(ココロは「休んでる暇はねえぞ」)とか「お手すきからどうぞ」(「順に食べて作業を止めるな」)とかいう方法もとれるのだがバーベキューとなるとそうはいかない、全員で1時間の食事タイムとなってしまった、これは当然大変に楽しいひとときであったのたが、ラストカットの準備中に暗くなり撮影不能となってしまった、もはやここに来る日程は取れないのでいずれ日活のオープンで撮影することになる。

 さてロケは朝が早いが終るのも早いのが魅力である、大汗をかきほこりまみれになった一日が終り、夕闇迫るなか汗を拭き、涼しい風に当っていると疲れた中にも「今日は労働したぞ!」、という満足感があり「明日も頑張ろう」という気にもなるのだが(ウソ)なんと今日はスタジオに戻って撮影があるのだ、いくらスケジュールがやばくなってきたとはいえこれはないよな~と戻る車の中で我々はまったく意気があがらない。

 もどって昨日のGB(グリーンバック)の続き、22時終了。

7月28日(火曜)

撮休。

7月29日(水曜)

9時開始。

 GB、対峙する2匹、触手を振る程度でたいしたことがないので私は明日からの岩舟ロケの準備を行う。

 撮影終了後、積み込み。
以下は積み込みチェックリストをテキストファイルに落としたもの

制作トラックへ------------

空気ボンベ(窒素はNG)
ナパーム用スタンド、スタンド中、小 各1個
ギャオス落としトタン板
30Kgウエイト4枚、ナパームベース(厚板)2枚
鉄骨2本(4M?)、端材各種
プロパン

その他撮影部より注文の品

ハイエース----------------

ガソリン携行缶(2つ)ポリタンク
火炎放射器2台、タンク
角皿/ナパーム筒/フタ付き筒
シャコマン全部
ザイル(太2、細2)/タイダウン2本
滑車/台付け/シャックル/カラビナ/細引き
シャミセン/5連S.W./1タッチS.W./テスター/バッテリー
番線一束/針金各種
火薬箱(大2、小1)/アメ火薬/ミルク缶/アセトン
空中ナパーム用カポック
コード類(ゲタ、平行コード、細W エナメル線)
ドラムコード/延長コード/スライダック1台
ギャオスリリースマシン/別に一分ワイヤー&クリップ
懐中電灯/折り畳みテーブル/100w電球
パワーカッター/ドリル(100V&バッテリー)/サンダー
工具箱/紙ヤスリ/テープ類
ピアノ線0.3~0.8まで
黒スプレー/ウエス1包み
エアー一式
10ミリ銅パイプ/ジュンロン/継ぎ手箱
スプリンクラー、噴霧器、接続金具&ホース

 22時終了。

7月30日(木曜)

 岩舟ロケ、栃木県佐野市岩舟町にある採石場跡地で今日明日とナイターのロケである。 ここは岩盤剥きだしの崖がそびえたつ荒涼とした場所であり、昔は西遊記のロケ、近くは「タオの月」のオープンセットなどが組まれた知る人ぞ知る映画のメッカである。

 なぜに中国の話も時代劇もOKであるのかと言えばそれはここには文明の痕跡がなにもない(!)からだ、カメラを360度パンしても日本であるとか現代であるとかを感じさせるものがない。

 「荒れ地」というロケ場所は他にも存在するが、あっち向けにすると民家が入るとかこっち向けにすると高圧鉄塔が見えるとかなにかしらのバレものがあるのが普通でこの岩舟のようにどこをどう撮っても大丈夫という立地は他にない、おまけに崖、広場の他にも、池とか坂道とか、高台とか草むらとかいろいろと便利に使える所がコンパクトに集まっていて極めて映画的に使い勝手が良いのだ、ついでに言えば隣りが現役の採石場で爆発等の音が出ても苦情がこないというのもポイントが高い(向こうの爆発は本物の「発破」である)
 しかし、今回ここが撮影場所として選ばれたのは私が強力に推薦したからだ、ここは知る人ぞ知るスポットであるのだが特撮屋ばかりの(スタジオにこもりがちな)ガメラのスタッフは誰もここを知らなかった、私は「タオの月」で約一ケ月間撮影をしていたのでどこにどうカメラを据えればどういう絵がとれるか熟知していたので、ロケ先選定の際に強力にプッシュしロケーションコーディネーターまでつとめて決定させたのだ。

 なぜそのように「強力」に推薦したかと言えばそれはここが「私の家から近い」からに他ならない(!)、直線距離で言えばここはとても遠い、しかし私の家は首都高のインターまで5分ほどの距離にある、東北道佐野藤岡インターまでの60キロを平均時速120キロで走ると30分、佐野藤岡から現場までは10分ほどなので、この岩舟は家から45分の場所にあることになる。
 これは大映まで1時間15分かかる私としては「いつもよりはるかに近い」のだ、おまけに車で音楽など聞きながら優雅に行くのと満員電車にもまれて行くのとでは天国と地獄ほど違う。
 (「タオの月」の際もスタッフは岩舟泊まりであったのだが私だけは毎日家から通っていた、高速料金を出すより宿泊代のほうが安いので制作部は私を「泊めたがっていた」のだが、私は高速代支給を条件に仕事を引き受けたのであった)

 さて今回は2日2晩かけてナパーム爆発を中心とした合成用炎素材を撮るのが目的である。
 いつものことだがガメラ3は炎の素材を多く必要とする、プラズマ火球をはじめとして爆発するギャオス、爆発するパトリオットミサイル、爆発する京都市街、爆発する・・と今回は以前にまして各種の炎素材を必要としているのだ。
 (合成部は「ガメラ2」の時「ガメラ1」で撮影したたった1つのナパーム素材をデジタル編集システムで切ったり張ったり引き延ばしたり、反転したりして貧乏使いしていたのだという、そこでさすがに今回は新しくネタをくださいよ、ということになったのだ)
 さて以下は私が提出した炎素材のアイデアである。

項目    種類      内容                         撮影方法
■水上ナパーム
 筒打ちナパーム     筒に入れたナパーム、上向きの方向性アリ  真俯瞰
 ベタ置きナパーム(強) 平らな面でのナパーム、四方に広がる     ”
 ベタ置きナパーム(弱) 燃え残りが水面で燃える              ”   
 2段打ちナパーム    筒とベタを続けて打つ、炎に変化アリ      ”

■地上ナパーム
 筒打ちナパーム
 ベタ置きナパーム
 2段打ちナパーム
 フタ付きナパーム   ナパーム筒の前に円盤をつけて打つ   真俯瞰&やや俯瞰
               (フタは3種あり)

■ギャオス落下
 1/2ギャオス落とし   ギャオスに火をつけて落とす            真あおり
               ( 3回分アリ)
 ギャオス破片落とし  ギャオスの破片に火を付けて落とす

■空中ナパーム
 空中爆破        空中でナパームを爆破                真俯瞰
               (ガソリンが燃え落ちる可能性あり、要防御、要消火)
 落下爆破        吊ったナパームを落として途中で爆破       横位置
■プロパン爆発
 風船爆弾         ビニール袋にプロパンと空気を入れて爆発させてみる
               (実際のところ爆発するのかどうかも未知)

■火炎放射       火炎放射器を水平撃ちする            横位置
 火炎放射壁当て    水平撃ちして壁に当てた火炎を撮影する
               ( 黒塗りコンパネ必要)
 噴霧器          散水用噴霧器にガソリンを送って火をつける  横位置
               (散水パターンを変えてみる)
               (ノズルが5つついている噴霧器も使用)
 炎のスプリンクラー  スプリンクラーにガソリンを送って火を付けてみる

-----------------------------


 一同現場に集合したのが13時、このときは真夏の太陽がギラギラと輝き私などは日焼け止めクリームを塗っていたのだが、トラックから荷物を下ろし始めるや一天にわかにかき曇り、あっという間にどしゃ降りの雨が降りだした、これが3時間にわたりあたりが白く霞むほどに降り続づいたのであった、これが「記録的豪雨」と呼ばれるほどのものであったと知るのは後のことである。

 17時頃雨が小やみになったので準備を開始したのだがすでにあたりは泥田のようである、ここは下が岩盤であるために水は染み込まず、地面の低い部分にすべて溜ってしまうのだ、濡れてはいけない機材は車の中から出すことが出来ず、そうでない機材もすべて泥だらけになってしまう。

 また、今回は火薬を多く使用するわけだが、これは湿気を嫌うため仕込みからハンドリングまで気をつかうことおびただしい、まったく最低の環境になってしまった。

 リストのうちナパームと名がついているものを中心に撮影を開始する
         ・
         ・
         ・
 こんなに明るくてホントに黒バックになってるの? という時間(午前5時過ぎである)まで撮影して撮影終了、私は車に乗って家路につき、皆は宿泊(休息?)場所である健康ランドへ向かう。

7月31日(金曜)

 先に着いた私がモスバーガーを食べていると一同到着、監督なにやらうらやましそうに「文明の香りがするものを食べてますね」と言う、どうやら一日でまいったらしい、というのは今回皆が泊まった健康ランドというのは宿泊施設でもなんでもなく、浴場・サウナ・パチンコ・ゲーセン・宴会場のある単なる娯楽施設なのだ、そこの宴会場でザコ寝をさせられたというのが実情なのである、はっきりいって人間扱いでない、「文明の香り」というセリフはそのあたりからの実感なのであろう。

 なぜにそういうハメになったのかというとそれは「タオの月」のおかげなのであった、宿泊費の節減のため「タオの月」スタッフはここに合計30日間も泊められたのであった宴会場であるために21時以前には布団を引くことはおろか部屋に入ることも許されないという過酷な環境である
(それでも「ゼイラム1・2」よりマシという説もあったことは一言書き添えたい)

今回のスタッフの中にその経験者がおり岩舟ロケと聞いて不幸自慢(!)をしたのがいけなかった、どうも制作部、監督等に面白そうだと思われたらしく「今回もそこで行ってみよう」ということになってしまったのだ。
 (しかし「タオ月」では少なくとも貸し布団があったが今回は布団もなしである、いくら予算がないと言ってもスタッフを遇する道ではないと思う)

 さてそのように私が遅い昼メシを食べているときは太陽が輝き、あつい夏の昼さがりであったのだがいざ作業開始となると雲が湧き、あたりは暗くなり、風が冷たくなって来たとみるや霧のような雨がまたまた降りだした。

 中止になるほど降るでもないが、屋根のないところには物が置けないほどには降っているうっとうしい撮影がまた始まった。

 今夜のメニューはまず炎上して落下するギャオス、ウレタン製の1/2のギャオスにガソリンを染み込ませ、40メートルハイライダーに取り付けた「ギャオスリリースマシン」から落として3台のカメラで狙う。

 落し用ギャオスは3体用意されているので、明るいうちにテストでひとつ落してみる、これにはFRPの翼がついているのだが硬直していて今ひとつ面白くない、一度落したものはそれが適当にこわれ落下途中に芝居をしてくれることがわかった、そこで本番用ギャオスの翼は根本に切り込みを入れておくことにする。

 暗くなるのを待って本番、新品を2体、燃えガラをつなぎあわせて作った再生ギャオスを1体の合計3回落とす。

 次はプラズマ火球をくらって爆散したギャオスの破片落とし、トタン板で作った2間×2間のトレーをギャオスリリースマシンに取り付ける、そして以前日活オープンで燃やしたギャオスの破片にガソリンをかけてこれに載せる、監督がもっと一杯と言うので先ほどの落しギャオスも切り刻んで載せる

 落下システムの引き金はハイライダーのバケットの上で黒瀬が引く、熱くないようにトレーはバケットから3メートル以上も下にあるのだがガソリンの染み込んだウレタンの山を見ていると心配になる、点火してもし熱かったらカメラを待たず即リリースしてしまえと言う。

 いよいよ本番、監督の「点火」の声でまず破片に火が点けられる、下から見たのではトレーの陰になっていてよく見えないがバケットがあぶられているようにも見える、トランシーバーで大丈夫か?と聞くと「平気です、火の回りぐあいは良いようです」と平静な返事なので一安心する、そこで監督が「よーい」と声をかけるとフォトソニックが回り始める、5キロゼネが一瞬スローダウンするほど電気喰いのカメラだ、「上がった!」という撮影助手の声で監督が「落した!」とトラメガでどなる、黒瀬が引きがねを引く、トレーがひっくり返って燃える破片が雨あられと降ってくる、カメラの防御板にガンガンと命中する、一同炭酸消火器を持って走り寄る、村川氏防御壁から出てくると「いや迫力あった、始めて目を(ファインダーから)離しちゃったよ」と言う、ドキュメント班摩砂雪氏も「レンズ前に破片が落ちましたよ」と、これまた嬉しそうである。
 一発OK

 次は「落下ナパーム」というものを撮ることにする、これはハイライダーのバケットからガソリンを落下させ充分に加速したところで爆発させるというものだ、監督のイメージはスペースシャトル「チャレンジャー」の爆発、つまり爆発したあとも炎が勢いあまって先へ進むところがかっこいい(ああ、バチあたり)のだと言う。

 監督は始めナパームをブランコさせて途中で爆発させたらどうですかね? と言っていたのだが、それじゃスピードがなさ過ぎるので落として爆発させ、カメラ横倒しで撮りましょうと提案したものだ、どっちみち本邦初公開なのでうまくいくかどうか保証のかぎりでない。

 ともかく一発やってみる、直径30センチほどのスチロール半球に5分玉3ケを付けそこに1.5リットルほどのガソリンをビニール袋に入れて載せる。
 これをピアノ線でバケットまでつり上げ黒瀬がニッパで切り放す、中間まで落ちたところで爆発させる、しかし見た目は普通の爆発で落下した効果は感じられない、どうやらスチロール球を破壊するための5分玉がガソリンを上へ吹き飛ばしてしまったらしい。

 そこでこんどは発火用のマグネシウムをガソリン2つでサンドイッチにした物を作ってみる、これならガソリンを上に弾く力はかからない筈である。

 再び本番、こんどは多少炎が下に向かって進んだ、という程度である、ガソリンが落ちていくので火は下に向かって燃え広がるのだがそれも一瞬で、燃えてしまえばいつものように火炎は立ち登ってしまう、スケールがもっと大きければまた違うのかもしれないが研究開発している暇はないのでこれはお終い、チャレンジャーへの道は遠い(だからバチあたりだって。

 、時刻はもう3時を回っておりあと2時間しかない、今日はどうしても「プラズマ火球を発射した後のガメラの口の中の炎素材」というものを撮らなくてはならないのだ。

 次第に明るさを増す天空と競争でナパームを撮る、前日に引続き「ホントにこれでナイター?」という明るさになるまで撮る。

 朝6時終了、当初は東京に戻って一時解散、夕方再集合する予定だったがさすがにそれは止めようということになる、演出部、制作部に理性が残っていたことについて神に感謝する。

 今日はこれまで。
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