幼女戦記
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ああ
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The Day Before Great War 4:ノルデン北方哨戒任務
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/28 22:00
ビバーク中の兵隊がやらねばならない仕事というのは、結局のところ穴掘りだ。
何時だって、まず穴を掘って比較的にせよ安全なねぐらを確保しなければ始まらない。
そういう意味においては、国際法と国際情勢に差し障りのある係争地域であろうとも仕事は同じ。
人数分の雪壕を構築し、コンクリートブロック並みに固い糧食をナイフで削って齧りながら待機。
普通ならば後は、意気揚々と新米士官でも弄れば古参兵というのはだいたい満足である。
弄れないほど堅物の士官であれば、眉を顰め、ダメだこりゃと長生きできない仮初の上官が冥福を祈ってやる。
「中間管理職はつらいな。」
だが、この場合弄る、弄らない以前にこの『新任?』はちょっと別格だった。
最初は単なる餓鬼かと、逆に躊躇したものの…『事故』や『不幸な偶発的事象』が多すぎるのだ。
経歴上は、まっとうな士官としてのコースを歩んでいるとされる士官だ。
一方で、古参兵ならば一発で嗅ぎ分けられる狂気の仄かな香りを漂わせる士官でもある。
第二次ホールシュテイン動乱時に、古参軍曹はその狂気を一度見ていた。
敵味方の損耗を一切度外視してただ『目的』だけを追求する指揮官というのは、頼もしくも恐ろしい。
まさか、越境攻撃しないだろうと暗黙の了解があったホールシュテイン北方限界線。
それをいとも容易く突破した指揮官は、敵野戦軍の撃滅を至上目的に一切合切を無視してのけた。
一兵卒では知りえないが、相当の関係国が一発触発になったと耳にしている。
そんな物騒なことをやらかした上と同じ匂いを漂わせる上官だ。
弄る以前に、『どうみても、戦闘意欲旺盛其のものですが准尉殿』と口にしたい。
そう口にできれば、人生はもう少し楽なのかもしれない。
「軍人とは、そういうものでしょう。准尉殿。」
「いや、その通りだな。まだまだ、私も未熟か。…学ぶとしよう。」
宝珠の機関部を確認しつつ、獲物に餓えたような溜息。
交戦規定を散々中隊長殿から念押しされたのか、発砲厳禁の命令が伝えられている。
にもかかわらず、念入りに装備を確認する姿は鬼気迫るものだ。
どこが未熟かは知らないが、この幼い士官は餓鬼の皮を被った狼やノストラフェスと言われても信じられる気分である。
「さて。連合王国はご苦労にも探してくれているが…どうやらまだ書類は見つけて居ないようだな。」
幼い表情に、つまらなさげで気怠そうな表情。
だが、酷く狡猾だ。
救出目標の死亡を前提として、回収すべき物だけ回収しようと言ってのける豪胆さ。
なにより、救援という任務を平然と再考できるのは異常だ。
遭難者を救うのではなく、遭難者のもたらす情報に注目し人命を数と考える節すら見せるとは空恐ろしい。
「やはり、捜索中と?」
「撤収する動きがみられない。あれでは、探していると言わんばかりだ。」
先ほどから、観察している連合王国系の捜索活動。
本来、明らかに如実な戦力差があるにもかかわらず平然としている胆力は異常だ。
状況を理解できていないガキが、平然としているのとはわけが違う。
そんな化け物じみた胆力と、狡賢い頭脳をこの年齢の子供が持ちえるのだろうか?
子供の無邪気さという言葉を、心底疑いたくなる。
神にかけて、自分が子供を持ったとしても信心深く育てなければと確信するほどだ。
「ただ、気になるのは外周警戒に当たっている中隊が居ることだ。あれを排除して懐に入るのは厄介だぞ。」
極々まっとうな敵情分析をする姿は、頼もしいといえば頼もしい。
実際問題、勇ましいフレーズで精神論をぶち上げる勘違いした士官よりは百万倍もましだ。
「仕方ない。日没まで待って、夜間浸透だ。」
だが平然と敵の手ごわさを認めたうえで、単調にことを運べるのは何かがおかしい。
端正な表情に、感情一つも浮かべればまだよいだろうに。
淡々と。
それこそ、人形じみた無感動さでことを進められては。
「一度、本隊に連絡を入れよう。通信可能な地点まで下がるぞ。」
実務能力は抜群。
状況判断能力も優秀。
これが、彼女の研修だというのだから新任士官とは何かの冗談かと聞きたいくらいだ。
それこそ、新任研修に偽装した古参兵の評価試験と言ってもらった方がよほど信頼できようというもの。
唯一、無視してしまいたい要素はやってきた人間が、自分の姪と同じ程度の年齢という事。
「夜のノルデンだ。怖くてたまらないな、軍曹。」
「はっ。」
だが、怖いなと嘯く准尉殿は、どう頑張っても姪と同じ人種には到底思えない。
今度機会があれば、兄夫婦に子育ての秘密でも聞いてみるかと変な想いすら頭に浮かんでくるほどだ。
喜色満面で飛び込んできた通信兵が持ち込む続報。
それは、ウォーカー少佐の胃に対する痛みを確かに和らげてくれいた。
発見した軍刀と、その痕跡を辿っての捜索活動の進展。
実際問題、目処が付きつつあるという事が大きな心の助けとなる。
すでに、現場の部隊に対して山のようにスコッチを馳走してやろうと決心できるほどに少佐の気分は和らいでいた。
だからこそ、先ほどとは異なり表情をやや強張らせた通信兵の姿を見ても鷹揚さを保ちえたのだ。
現場からの報告は、予想の範疇。
予想されていた事態にすぎない悪い知らせであれば、心構えはできていた。
それと同時に、さほど目立つ知らせではないものの重要なターニングポイントと化しかねない知らせも一つある。
どちらにしても、ウォーカー少佐にとって手札はブタではないということだ。
故に、彼は熱々のお湯でお茶を一服し一息ついてからゆっくりとお客人のところへと赴く。
「ミスター・ジョンソン、良い知らせと悪い知らせが。」
ある種、それまでは追いつめられた雰囲気すら漂わせていたウォーカー少佐のにこやかな表情。
それだけで、事態が改善しているという事を司令部内部の誰もが理解できるだろう。
心に余裕が出来た時点で、ウォーカー少佐は緊張に引き攣りかねないほどであった司令部の雰囲気を意図的に緩和すべく努めている。
「では、一先ず悪い知らせから。」
「エステルハージ中佐の死体を発見しました。不味いことに、足を踏み外しての墜落死で荷物の所在が不明です。」
「それは望ましくない。徹底的な捜索を。」
そして、指揮官にそこまで余裕が出てきたことを見て取ったジョンおじさんの表情も口ぶりとは裏腹にかなり穏やかなものだった。
実際問題として、素人がこんな厳寒のノルデンが危険地帯を軽装で突破できるとは考えにくい事態なのだ。
共和国軍の内勤専門家であるエステルハージ中佐殿が、無残な凍死体で発見されるのは十二分に想定されていた。
少なくとも、生きて帝国にたどり着かれるよりはずっとましな結果と言える。
まあ、共和国にしてみれば生きて法廷に引っ張り出したかったのかもしれないが。
そこまで連合王国情報部が面倒を見る義理もない。
もちろん、生きていればそれ相応に情報を絞ることもできただろうが。
「それで、良い知らせとは?」
「気象班の報告によれば、気圧に改善がみられるので天候は数日以内に回復するとのことです。」
逆説的に言えば、エステルハージ中佐が永遠に休むことで喋らなくなったのだ。
現世において何よりも有言にもの申すであろう書類の回収は急務だった。
その意味において、難航するであろう捜索を容易となす天候の回復は朗報だ。
「悪い知らせではないが、時間はかけたくない。捜索を急がせてくれ。」
時間との戦いではあっても、自分たちは勝利しつつある。
そう、厳しくはあっても余裕があるのだから。
吹雪の中、視覚ではなく探査機器と傍受だけで敵の動きを探るのはひどく神経を病む。
実際のところ、暗号化された敵の通信が解読される頃には回収任務は終わっているだろう。
必然、傍受の図り方は通信量の絶対値と、パターンとの対比にならざるを得ない。
この点、暗号解読班は楽でいいのだろうが現場の部隊は不定期に私用で無線を使う敵兵に酷く悩まされる。
隊内通信で暗号化された雑談をやらかされると、それだけで敵通信量に変化が生じてしまう。
当然、暗号化されているためにそれが雑談なのか、重要な通達なのか、本部とのやり取りなのかで酷く悩ましい。
苛立たしいことに、定時通信以外にも索敵の効率強化のために頻繁に圧縮通信がやり取りされているらしかった。
お陰で、敵に変化の兆候が表れるたびにターニャは仮眠からたたき起こされて敵全体の傍受に回るはめになる。
大体の場合、不定期な通信を拾って監視にはっても勝手に短距離通信で盛り上がって終わり。
早い話、単なる身内話をコソコソと傍受している人間の骨折りに終わる。
だが、単調なルーチンワークの繰り返しは組織の一員として出世するためには必須だ。
それができるか、出来ないかの違いが将来を決定するのである。
そうであると知っている以上、ターニャとしては所属する軍に対する忠誠心のために一切手を抜かない。
信用とは、積み上げるのに山のような時間を使うのだ。
…崩すのはあっという間であるが。
そして、その努力は報われることになる。
ウンザリとした表情で、敵通信網に変化の兆しアリと報告してきた通信兵。
珈琲擬きというにも、おこがましい何かに辟易としていたターニャが気分を変えるためにレシーバーに向き合った直後。
「っ、敵通信量に顕著な変化あり!中距離通信、急速に増加中!」
飛び交い始めた明らかに短距離通信にしては強すぎる出力の通信。
それまでの、気怠げな雰囲気を漂わせていた通信兵らの表情が一瞬で激変。
定時通信とは、規模が異なる情報量のやり取り。
そして、果てには長距離通信の出力で後方とのやり取りすら確認された。
その直後に、魔導師部隊宛と思しき集結信号が発信されたのが確認される。
「っ!准尉殿、どうやら目標は発見されたようです。」
意味するところは、広範囲を対地捜索術式で走査している魔導師への集結命令。
おそらく、それは目標を発見し集結することだろうと考えた通信兵は咄嗟に現場責任者の判断を求める。
仮に、回収されるとなると強襲、強奪もやむなしではないのか?と。
「いや、正確には手がかりが手に入った程度だろう。」
だが、ターニャにしてみればそもそも命がけの国際法規違反などやらかしたくないことこの上ない。
何が悲しくて、遥かに優勢の敵軍に突っ込んだあげく生還できても国際法違反の責任を被る立場にならねばならないだろうか。
そんなのは、給料分以上の要求である。
これが、取締役以上であれば別かもしれない。
だが、ターニャ・デグレチャフという幼い准尉の給料は家族手当がつかないばかりか、各種手当を入れてもカツカツなのだ。
なまじ、幼いだけに年齢加算分もないだけに雪山で捜索活動に従事する時点で過剰労働気味と本人は判じている。
だからこそ、仮に強奪に行かざるを得ない立場であってもそれに気が付かない演技をしなければならなかった。
単純な自己保身の感情。
それだけに、ターニャは敵情の中から自分にとって都合の良いものを懸命に探し破顔する。
「みろ、地上走査術式が密集し始めている。連中、此方への警戒は完全に忘れて何かを探しているぞ。」
「なるほど、そういう事ですか。」
発見したのならば、彼らは対地走査などという面倒なことはやらかさない。
さっさと、掃除して痕跡を消し去ってからRTBだ。
こんな遭難多発地帯で長居したいと考える素人が、出張ってくるはずもない。
それが、何を血迷ったか、全力で対地捜索中。それも、特定地点にフォーカスして。
「このタイミングで連中が、巡回網を崩して対地精査に移ったということを考えれば…。」
意味するところは、単純かつ明快だ。
「目標は、動かないと確信しているという事ですね。…ということは、死体を見つけましたか。」
巡回網は、動体目標を捕捉するための捜索警戒配備。
それを解除し、特定地点から順繰りに捜索するとなれば。
それは、エステルハージ中佐の捜索を打ち切り何かを探すに足る証拠を見つけたということだ。
あの連合王国が、エステルハージ中佐の私物程度で退くとも思えない。
そうであるならば、意味するところは単純だ。
面倒事を生んでくださった、帝国の善き友人であったエステルハージ氏が死んだという事である。
術式を監視している立場から言うと、おそらく彼らも死体を発見しただけだろう。
交戦というには、余りに平穏すぎる兆候だった。
仮に、連合王国が生きているエステルハージ氏を発見したらば拘禁するだろう。
其れがないという事は、単純な凍死か転落死だ。
「だろうな。よし、タイミングを見図り回収だ。その後は、逃げるだけだぞ。」
つまり、大よその回収物の所在は連合王国が発見してくれたと解釈してよかった。
暗号が解読できずとも、敵の動きが雄弁に所在を明らかにしてくれるのだ。
この点に関しては、連合王国情報部の失策というよりも迂闊さだろう。
…彼らは、良くも悪くもこのノルデンでの捜索活動に主眼を置いているのだ。
彼らは、戦術レベルにおいて捜索という任務に専念させられる立場。
早い話が、端から襲撃をも見込んで展開している帝国軍戦闘部隊とは前提が違う。
連合王国系の彼らに与えられている任務は、あくまでも捜索回収任務。
「強奪すると?」
覚悟が違うのだ。
ぼそりと通信兵が呟くほどに、連合王国情報部との戦闘すら考慮する帝国とは捜索の手順も異なる。
何より致命的なことに、共和国からの依頼で展開していた連合王国情報部は事の重要さを測りかねていた。
「まさか!交戦許可は下りていない。砲火を交えずに回収するしかないだろう。」
上からかけられる、圧力の度合いが桁違いなのだ。
当事者である帝国軍情報部にしてみれば、一切妥協を許さない状況だと知悉している。
それこそ交戦せずに、国際法違反の証拠を残さずに、しかし絶対に回収して来いなどという無理難題が出されるほどだ。
馬鹿馬鹿しい話ではあっても、現場のターニャは交戦許可なしで何とか掠め取る仕事の目途をつけねばならない立場となっている。
そして、ターニャは良くも悪くも天啓的な『善良な個人であり、邪悪な組織人』だ。
個人として善良であるかどうかの議論の余地はあったとしても、組織人として邪悪極まりないのは間違いない。
労使交渉で、法律の建前を守りつつも法の精神は平然と無視する程度に法律の扱いには悪い意味で慣れてもいる。
「…では、交戦は回避なさると。」
「当たり前だ。何のために、わざわざ工作用具をいくつも担がせていると思っている?」
故に、ターニャは極々まっとうに命令に忠実ながらも綱渡りじみた対応で目的の遂行に邁進する。
彼女に与えられた命令は、あくまでも『交戦の禁止』と『国際法違反の越境作戦露呈を回避』というもの。
人道的に行動せよなどと命令されていない以上、『不幸な事故』を採用する分には命令違反たりえないとターニャは判断している。
なにより、公式には存在しない越境作戦だ。
報告書でいちいち、詳細を報告させられることもない。
そんな作戦ならば、国際法違反が『立証されない限り』は推定無罪だ。
「では?」
「敵が罠に嵌ってくれれば結構。ダメなら駄目で、予備案に従い後退するだけだ。」
ターニャにしても、手を汚したくない。
だが、同時に組織の一員としてある程度踏み絵を踏まなければならないことも理解している。
人事部の評定において、組織への忠誠心とは重要な評価項目なのだ。
逆に言えば、少なくとも下手を踏まない限りトカゲのしっぽ切りにされにくい条件下での踏み絵は歓迎すらできる。
これほど早いキャリアの段階で、ある程度忠誠心を示せればその後の昇進や後方任務にも恵まれるだろう。
なにより、情報関係者に貸しを作っておけるとなれば最悪の場合亡命の一助になることも見込めた。
まあ、そんな最悪の展開は避けておきたいのだが、情報部に貸しを作っておいて損はないのだ。
借りを作っておくことは恐ろしいが。
故に、交戦ではなく『不幸な事故』で敵兵を排除。
其れが出来なければ、せめて自然災害に偽装して敵の回収任務を妨害することを計画している。
その為に、わざわざ発破用の爆薬を担がせているほどである。
すり替え用の鞄に加え、工兵用の器材までも手配しての計画。
「了解です。…しかし、魔導師相手に雪崩何ぞ効くものですか?」
だが、実際問題として器材を担いでいる側にしてみれば疑問を抱かざるを得ないところがある。
雪崩で捜索の妨害は可能だろう。
鞄を雪で流してしまえば、まず発見は困難だ。
それこそ、よほどの幸運に恵まれない限り永遠に失われるとみていい。
だが、それだけでもある。
雪崩は、所詮地表を走る自然現象。
航空魔導師という兵科は、いざとなれば緊急離脱が可能である。
飛んで逃げればいいのだ。
そこに火線を集中するならばともかく、雪崩単体で敵魔導師の排除が出来るかといえば疑問だった。
「実際のところ、航空魔導師が防殻を展開して離脱しているならば効果は望めんよ。」
無論、回収作戦を計画するターニャにしてもそれは分かっていることだ。
魔導師の最大の強みである機動力を削がないことには、雪崩程度ではどうしようもないという事は理解できる。
なによりも重要なことに、雪崩を引き起こすところを発見されれば終わりだ。
「だが、使い方次第だろうな。例えば、雪崩にいろいろ組み合わせるという手もある。」
それ故に、ターニャはちょっとした一工夫を忘れない。
下味のない料理など食べられないだろう。
だから、料理する時はまず下ごしらえからするのと同じだ。
作戦行動を起こすに際して、出来る限りの下ごしらえの労を怠ることは許されない。
例えば、地理的条件や植生・天候情報の収集は最低限の義務だ。
敵情分析や、貪欲なまでの前線情報の収集は失敗を避けるための基本ですらある。
その結果として、ターニャは種も仕掛けもあるちょっとした事故を演出できるのだ。
「組み合わせるとは?」
「ああ、少しばかり腹案を考えてある。」
雪崩は、自然現象でも起こりうる事態。
早い話が、自然現象である以上帝国とは無関係と強弁できる。
そして、雪崩に何か別の自然現象を組み合わせれば効果的に敵を排除しうると考えるのだ。
「…失礼ながら、どのような?」
「軍曹、ここは活発な火山活動と鉱泉で有名だと知っているかね?」
ある意味において、それはターニャの知る日本国における悲劇的な事故だ。
火山地帯に多い事故、知っている人間ならば、それこそ避けるべく留意しているであろう事故だ。
そして、それは自然由来であるが故にターニャにとって理想的ですらある。
自然に発生する現象で連合王国からお越しの情報部部員らが全滅したところで、帝国は国際法上の責任を問われる立場にないのだ。
まして、ここには国際法上、連合王国の関係者が展開しているはずもない場所だとすれば不問に処されるのは自明だろう。
連合王国が、協商連合のカバーで叫ぶとしても係争地域で消息を絶った自国兵など問題の火種でしかない。
仮に、是が越境攻撃をおこなった帝国軍部隊に殺されたとなれば別だろう。
だが、証拠もなしに騒ぎ立てる不利は誰にでも想像できる。
お宅の山に不法侵入したうちの兵士が、事故で死んだ責任を取れ!と指弾したところで失笑を買うだけだ。
無論、ソ連の様に完全な自作自演で攻撃されたと演出することも不可能ではない。
だが、協商連合と帝国の国力比はフィンランドとソ連の関係のようなものだ。
ターニャの考えるところ、帝国が自作自演することはあっても、逆は考えにくい。
なれば、事故ならば相手が地団駄ふんで泣き寝入りだろう。
「ええ、ですが、それが何か?」
「 Si vis pacem, para bellum。備えあれば、憂いなしだ。うかうかとこんなところに来た連中の不幸を一緒に弔問してやろう。」
理解できなかったらしい、部下の呑気さ。
いや、活火山が帝国内地にないライヒの軍人は単純に想像できないだけか。
そう考えたターニャは、変な知識も役に立つ機会があるのだなと苦笑するにとどめておく。
「は?」
「まあ、種自体は大したものでもない。すぐにわかるだろう。…さあ、時間だ。行動を開始しよう。」
…磁気異常、火山。そして、雪山だ。
此処までくれば、やるべきことは決まっている。
あとがき
①久々の更新。遅筆の言い訳は、次の『お知らせ』をご参照ください。
②火山、温泉、雪。ここでピンときた方、ネタバレは次回更新時までご容赦ください。
③なんか、理想郷がまた安定しなくて重いのは自分の環境だけなんでしょうか…。
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