✒気にならぬでもなし

「 ついに不徳のため、海軍はもとより、全国民に絶大の期待をかけられたる本艦を失うこと、まことに申し訳なし。
ただ本海戦において、他の諸艦に被害ほとんどなかりしことは、まことにうれしく、
なんとなく被害担任艦となりえたる感ありて、この点、いくぶん慰めとなる。

本海戦において申し訳なきことは、対空射撃の威力を十分、発揮しえざりしことにして、これは各艦とも下手のごとく感ぜられ、自責の念にたえず。
被害大となると、どうしても、やかましくなることはいたしかたないかも知れないが、これも不徳のいたすところにて慙愧 ( ざんき ) にたえず。

( 中略 ) 本日の致命傷は、魚雷命中(五本、確実以上七本の見込み)にありたり。
いったん回頭しているとなかなか艦が自由にならぬことは申すまでもなし。
最後までがんばり通すつもりなるも、いまのところダメらしい。
一八五五、暗いので思うようにことを書きたいが意にまかせず。 ( 中略 ) 生存者を退艦せしむることに、はじめから念願。
悪いところは全部、小官が責任を負うべきものなることは当然であり、まことに相すまず。
本日も、相当数の戦死者を出しあり。これらの英霊を慰めてやりたし。
本艦の損失は、きわめて大なるも、これがために敵撃滅戦にいささかでも消極的になることはないかと気にならぬでもなし。

いままでのご恩顧に対して、こころからお礼申す。
私ほどめぐまれた者はないと、平素より常に感謝に満ちみちたり。
はじめは相当ざわつきたるも、夜に入りて、みな静かになり、仕事もよく運び出した。
いま機械室より、総員、士気旺盛を報告し来れり。
一九〇五