ドイツ海軍、ドライゼ艦長揮下Uボートの
左舷数十メートル先海面に、敵艦の砲弾が着弾する。
ドライゼ、急速潜航。
イギリス海軍提督リチャード、
双眼鏡でその様子を視ている。
リチャード | 「 弾着して15秒!。 |
さすがに、ドライゼの腕は、物凄いな! バートン君。」 | |
バートン中佐 | 「 はい、提督。」 |
ドライゼ | 「 敵艦との距離は、幾らか?」 |
レーダー手 | 「 2万5千メートルです! |
現在、本艦の追尾に移っています!」 | |
ドライゼ | 「 2万5千メートルの向こうから正確に射撃して来れるのは、 |
戦艦の大口径主砲だけだ! | |
相手は、戦艦だ!」 | |
レーダー手 | 「 敵艦が、本艦の真上一直線上に乗り込んで来ます!」 |
ドライゼ | 「 潜航したまま攻撃できるシュノーケルを着けて以来、 |
連合国の船に遅れをとったことなど無い。 | |
ましてや、デカイだけの戦艦ごときに、 | |
追われたことも無い。 | |
・・・・・何ということだ! | |
戦艦が追って来るのだ!」 | |
ドライゼ | 「 相手が何者かは知らないが、恐るべき相手だ! |
私は、こんな手強い敵に遇ったことはない。」 |
通信手 | 「 敵戦艦より入電。 |
” 我が艦は、英国海軍リチャード提督揮下、戦艦バラクーダ。 | |
貴艦の艦長のご尊名を承りたし! "」 | |
クロイツ中尉 | 「 相手はリチャードです。ドライゼ艦長。歴戦の駆逐艦乗りですね。」 |
ドライゼ | 「 リチャードは、或いは、来るべき第三次世界大戦に向けて、新兵器の実験をしているのかも知れないな。 |
だが、このモルモットは、いささか手強いぞ。 | |
そうだな、クロイツ中尉」 | |
クロイツ中尉 | 「 偉大なモルモットですね。」 |
戦艦バラクーダへ返信
「こちらは、ドイツ海軍U-126
艦長は、デスバルト・フォン・ドライゼ!」
ドライゼ艦の航海士 | 「 無線士が、潜航誘導用の超長波ビーコンが僅かに乱れていると言っています!」 |
ドライゼ | 「 敵戦艦は、超長波に依る潜水艦探知装置を搭載しているのだ!」 |
リチャード | 「 通常、超長波では、小さな艦船の探知は無理だと云われていた。 |
しかし、我が英国海軍技術局は、超長波の先端を急激に短くして、それを可能にした。 | |
偉大な技術だ! 戦艦バラクーダの25インチ砲弾を食らえば、Uボートなどは、鉄の粉になってしまう。 | |
ドライゼ、どうやら君の負けだ!」 |
ドライゼ艦通信手 | 「 敵のソナー音が聴こえます!」 |
リチャード | 「 左舷2千メートル!第三波砲爆雷戦、用意!」 |
ドライゼ | 「 あの氷山の下を、深深度潜航でくぐり抜けるぞ。」 |
クロイツ中尉 | 「 氷山の下は、水圧で危険ですね。」 |
ドライゼ | 「 リチャードが相手では、危険は覚悟の上だ!」 |
Uボートの内部、水圧でミシミシと音を立てる。
しかし、くぐり抜けに成功し、戦艦バラクーダの斜め前方に浮上して、
魚雷を戦艦バラクーダに向けて発射する。
リチャード | 「 ナニッ!? 取り舵いっぱい!!!」 |
ドライゼ | 「 しめた!今の攻撃で、さしものリチャードも照準が狂っているぞ! |
新兵器のホーミングをお見舞いしろ! | |
4本連続発射!!!!」 |
リチャードの部下 | 「 魚雷が進路を返進して、本艦を追尾して来まーす!」 | |
リチャード | 「 何? ホーミングだ!音響式の自動追尾魚雷だ!ドイツはもう開発していたのか・・・・・・」 | |
戦艦バラクーダ砲撃手 | 「 右舷、第5波砲爆雷戦、用意!」 |
リチャード | 「 まて、もう遅い。あの魚雷からは、逃れられん!主砲の全弾を、Uボート後方の氷山に集中しろ。」 |
浮上して、戦艦バラクーダの様子を視ているUボート、後方の氷山に気付いていない。
ドライゼ | 「 永遠に眠るのは、そちらだな、リチャード!・・・・!?しまった、氷山が崩れる!急速潜航!!」 |
Uボート航海士 | 「 氷で我が艦破損。艦が沈みまーすっ!!!!」 |
戦艦バラクーダ側面に、巨大な水柱と、衝撃音が4回。
ドライゼ | 「 相討ちだ! 魚雷も全弾命中!!!!」 |
ドライゼ | 「 男は、好敵手の顔ぐらい、見てから死にたいものだな!クロイツ中尉。」 |
ドライゼ、バラクーダに向かって敬礼。
リチャード提督、双眼鏡でドライゼ艦長の顔を視認して、
「フフフ、ドライゼめ!」
リチャードもUボートに向かって敬礼。
その瞬間、戦艦バラクーダは、大爆発し、轟沈。だが、Uボートも沈む。
「 ただひとり、
ショートサンダーランド飛行挺に救出された、副長クロイツ中尉は、
戦後、誰にも何も語らず、何処かへ姿を消した。
今も、北海の海辺で、オーロラの下で戦った男たちの幻を追い掛けているのかもしれない。」