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 幼女戦記

⚔️ ああ

 
01. 02. 03. 04. 05. 06.
00 01 02 20 21 40 41 60 61 80 81 1₀₀  □

⚔️ 第二話 良い一日。       カルロ・ゼン 2012/04/12 00:29


視点:一般(教官)

銃殺隊を、士官学校候補生に行わせるのは、何故か?
彼らが、実際に戦地に赴き、殺人を行うことが、確実に見込まれるからである。
だから、前線に準じる国境警備研修で、硝煙の香りを嗅がせる。
その匂いを復習し、定着させるために、わざわざ銃殺を執行させるのだ。

「おい、デグレチャフ一号生。想定条件、攻勢。この状況で半包囲下におかれた部隊の取るべき戦術を述べよ。」

「はい、中央突破、背面展開、包囲殲滅が最適であります。」

だから、この時期に多少なりとも、多くの士官候補生は動揺する。
人を殺すということの意味を、考えすぎて、壊れかけるのだ。
生命を奪うという事は、本質的にそういうものだ。
どの動物が同族殺しを積極的に行おうか!
まさに、人間の呪われた特権としか思えないような代物だ。
いや、だからこそ、我々は殺人という行為の忌避感を乗り越えさせねばならない。
だが。平然とした表情のデグレチャフは、淡々と自明の解答を読み上げるように応じてくる。
学業に逃げる秀才、というのではない。過去の経験からいって、そういう連中はどこか思いつめた口調になる。
だが、彼女は、明日の食事を伝えられて、知識として了解しつつ今日を過ごすにはさしたる影響も無しという態度。
むしろ、無意識のうちに奴は嗤っている。
やってのけると言わんばかりに、気さくな雰囲気なのだ。
いや、奴にしてみれば、銃殺を命じられる意図を理解しても、意味が理解できていないのかもしれない。

私自身、激戦区帰りの古参兵に、新兵に対するフォローをしているような気分だ。

「状況防衛、かつ敵戦力が優勢の場合。」

「はい、一点突破による離脱、もしくは遅延部隊を設け、後退を推奨致します。」

想定状況を悪化させ、貴様にやってのけられるのかという問いかけを視線に乗せる。
だが、解答は模範的かつ、迅速なもの。
まるで、軽い問いかけに応じるかのようなごくごく冷静な解答。
むしろ、これが魔導士官としての有るべき模範なのかとすら、錯覚させるほどあっさりとだ。
葛藤も、躊躇も存在していない。
つまりは、気負いがないのだ。
歩けと言われて、歩く程度、普通にできるというような自然体なのだ。

「貴様が、分隊指揮官であるとする。この状況下での遅延戦闘の本旨は?」

では、士官として最初に遭遇しうる状況でどう処理する?
国境研修で上がってきた報告は、彼女でなければ別人の報告と混同されたと断じて良い代物だった。
実質的な機会さえあれば、敵兵を前に舌舐めずりしかねない程だと所見があった。
叩き上げの中隊付き軍曹によれば、行為だけを見れば、歴戦の士官同等であり、良く部下を苛めたと褒めている。
訓練で、これほどまでに兵を苛めぬいた将校はおらず、彼女の在任中に実戦が無かったのは実に不幸だとすら記載された。
指揮官先頭の精神で、屈強な兵士が悲鳴を上げる長距離浸透訓練を、実質敵地で行う。
あれは、訓練という名目の匪賊討伐だと、報告書を見た将校は一致している。
完全戦闘装備で、夜間に、匪賊徘徊地域を、長距離浸透襲撃行程で孤立した友軍基地まで、行軍。
誰にとって幸運なのか、わからないものの、匪賊に遭遇せず。
遭遇していれば、虐殺か、屠殺か、蹂躙かの何れかだろう。
曰く、敵よりも候補生殿が恐ろしいと、良い意味で言わしめた、らしい。

「はい、狙撃戦術が最適かと判断します。」

完璧すぎる解答。
分隊の兵士たちは、訓練時、徹底した遂行能力を強要されたという。
曰く、やるか、私に処分されるか選べと。
反抗した数名の兵士は、躊躇なくライフルで撃たれている。
いや、正確な名目上の理由は、銃の暴発事故。
間抜けな兵士が、夜間行軍演習中に整備不良や、不注意で大けがをしたというだけのことだ。
本来、責任者の責任が追及されるような形式での報告だが、だれも、額面通りにそれを受け取らない。
受け取れるわけがないのだ。

・・・偶然兵士に銃口が向かった状態で、銃が何度も暴発?

それこそ、冗談に過ぎない。

この文字通り鉄血の統制によって、彼女の長距離浸透襲撃行程時には、ツーマンセルでの分散進撃ができていた。

兵士が嫌がる狙撃戦術も、彼女ならば命じれば、兵は従うのだろうと信じられるから恐ろしい。

「想定を追加、撤退が許可されない場合。」

「はい、敵の損害最大化、もしくは敵拘束時間の極大化のどちらかを戦術目標に設定していただきたいと思います。」

淡々と言ってのける。
若者特有の、軍事的な浪漫ティズムとは無縁の、ごくごく計算式に従っての解答。
戦場に酔うのではなく、唾棄しつつ、最高の解答を計算している結果としての解答。
もはや、私は、士官候補生を教えているという気にはなれない。
なにか、少女の皮をかぶった戦闘機械に語りかけているのだろうか?

「何れの場合も述べよ。」

「はい。敵損耗最大化を目的とする場合、伏撃より混戦に持ち込み優勢なる敵支援投射能力の無力化に努めつつ、近接にて刺し違えます」

生まれは、誰も知らない。
彼女は、孤児院出身であり、魔導師の適性があるがために、兵士として徴兵される代わりに、こちらに来た。
適うならば、親の顔が見てみたいものだ。
人が、この少女を産みえるものだろうか?
人以外の何かが、兵器として産むべきを誤って、人として生んだのではないのか?

「そして、敵拘束時間の最大化でありますが、少数の部隊を殿軍とし、ゲリラ的に出血を強要する戦術を採用します。」

士官学校の採点としては、決して完璧で無い解答。
敵拘束時間の最大化には、理論上は、徹底的な遅延防御が最適だとされる。
少数の分散は、確固撃破の対象であり、最もさけるべき戦力配置と、教えている。
だが、どうだ。
理論はともかくとして、実践は異なるのだ。言うは易し。だが、それを実践するのは別の議論だ。
実戦で、最も恐れるべきは、彼女の解答なのだ。
戦場で、実戦で、最も最適な解答を、彼女は教わらずとも知悉している。

「・・・大変結構である。」

このまま、前線に送り出そうとも、なんら問題なく、彼女は活躍するのではないか?
正直なところ、彼女を教育するということは、これ以上無意味なこともないように思えてならぬ。
前線帰りで、硝煙と帰り血の臭いを燻らせる野戦指揮官に、指揮官のイロハを説くように思えてならない。
だが、彼女は、貪欲な知識欲を持ち、かつ頭の回転が廻る。

「教官殿、質問をよろしいでしょうか。」

「かまわん。なんだ?」

「はい、半包囲下におかれるという想定は、攻防戦でありえる設定であります。」

そう。士官学校の教育においても、一般的に想定される事例である。
やや、乏しい事態であるのは事実だが、設問としては不思議なものではない。
そして、実戦でも、少なからずの将校が直面してきた。

「その通りだ。一般的に、部隊の孤立は忌むべきではあるが、ままあることである。」

だから、最悪を想定して、対応していることは、最悪に備えるという軍隊の性質上、誤ったことではない。
促成教育にも関わらず、この分野は削減されていないのだ。
当然、それだけ重要な戦術上の判断が迫られるという想定だ。

「はい、ですが、敵が優勢、かつ後退が許されない状況とは?」

だが、これは微妙な想定だ。
帝国にとっては、あまり望ましくない未来像を示唆すらしている。
つまりは、劣勢に追い込まれつつある帝国の有りうる未来なのだ。

「なにが、言いたいのかね?」

「はい、死守命令が、下される状況は、どの程度ありえるのでありましょうか。」

しかし、未だ列強間での本格的な衝突が始まっていないこの現状で、その予測はどこからくる?
わずかな手元の判断材料からそこまで推察したならば、異常としか思えない。

「珍しいな、怖気づいたのか?」

我ながら、うかつであった。
彼女の人間らしさが発露したと、ただ、咄嗟に誤解してしまっていた。
その誤解に安堵し、不覚にも適切でない質問を、考えればわかるようなミスをしてしまう。

「はい、いいえ。教官殿。」

冗談でも、訊ねるべきではなかった。
そう、即座に後悔する。
眼にあるのは、至誠。
疑われたことに対して、わずかながらも隠しきれない反発。
どれほどの憤怒がその胸中には渦巻いているのだろうか。
聞くべきでなかった。

「・・・ならば、よし。」

理解する。
彼女は、戦局を理解し、その上で、なお覚悟を決めている。
驚くべきことに、その対処すら考慮の上でだ。
明確な意思で持って、其の手に武器をとれる。


視点回帰:デグレチャフ


精巧な戦争機械をして、耐えがたい負荷とは何か?
実のところ、歴史的にみた場合、戦争の決定打なるものは存在せず、支配戦略も皆無である。
なるほど、ドイツはその強大な戦力を維持することに失敗した。
一次大戦も二次大戦も、ドイツは最終的な敗者だ。
だが、一つ留意しておくべき事項がある。
少なくとも、一次世界大戦時、ドイツはロシアを破り、二次大戦時はフランスを降した。
だが、経験則から補足しておくと、一次大戦のドイツ敗戦要因は、国力の限界だけにはとどまらない。
中から破れたのではないか?
精巧な戦争機械とて錆びつけば、それまでだ。

まあ、共産主義以上に軍部独裁も悪質なので、どちらもどっこいだろう。
ロシアの一次大戦敗戦要因とて、国内の情勢が主たる理由なのだから、国内を政治的にクリーンにするのは常識だ。
だから、この世界においても統治サイドがごくごく常識的に国内の潜在的敵対勢力を削ぐのは合理的。
反抗する連中を取り締まるのは、もっと自明。

当然、その取り締まられた連中に対峙するのは、国家のみが所有する暴力装置
すなわち、私こと、ターニャ・デグレチャフ一号生が属する帝国軍というわけだ。
精確を期すならば、帝国軍憲兵司令部や、野戦憲兵隊の専門だがね。
細かいことは、実際にはどうでもいいことでもある。
なにしろ、これからそういう憲兵隊の下請け作業だ。

銃殺の指揮を執るという微妙にありがたいのか、ありがたくないのかわからない仕事なのだ。

・・・仕事は、前向きに取り組んだ方が精神衛生上望ましい。
勤労意欲もわいてくる上に、効率もそちらの方が望ましいとされる。
如何に、部下の意欲を引き出すかということも重要だが、まずは、自分からとも。

よし、善は急げ。今日できることを、明日に持ちこすな。
その視点で、考えをきり替える。
すなわち、銃殺の指揮は、人を殺すという一点からは解放されない。
しかし、直接手を降すわけではない。
そう、個々が重要。
銃殺の指揮って、良く考えると自分で撃たなくてよいですね。
考え方を変えてみればよいという結論は実に正しい。
すなわち、あいあむ無罪。
引き金を引くのは、同期の面々。
銃殺命令を出すのは、お偉いさん。
私は、ただのメッセンジャー
つまりは、組織の一歯車。
むしろ、その潤滑油。
結論は、実に気分よく仕事をさせてくれそうだ。

「なにか言い残すことは?」

本日の銃殺対象は、筋金入りの共和主義者。ああ、共産主義者の疑いもある?
国境侵犯の上げくに、偽装した戸籍で帝都で騒乱を引き起こそうとしたそうな。
加えて性質が悪いことに越境の際、国境警備隊を襲撃し、警備兵に死者までださせている。
罪状は真黒。

「目覚めよ!何故、君達は、同じ階級から搾取せんとするのだ!」

本人は、それを恥じるどころか、堂々と述べるありさま。
要するに、信念のある男だ。
立派な男だ。資料として渡された供述調書によれば、堂々と自説を展開している。
軍上層部が搾取構造に味方し、本来は許されるはずもない皇帝専制に味方した?
本来、社会には支配構造など無意味であり、それは階級の欺瞞である?
てっきり、尋問に当たった憲兵隊が締め上げて無理やり自供させたのだろうな。
そんな風に、誤解するほどに典型的な共産主義イデオロギーが散々記載されていたが・・・。

これは、本物のアカではないか。

「ああ共産主義者かな?なかなか、御立派な信念をお持ちのようだ。」

まったく、なかなか御立派なゴキブリモドキではないか。
しぶとさではゴキブリを上回り、自己の正義に陶酔し、周囲の迷惑を顧みないなど、道徳観はゴキブリ以下だ。
まだ、修正主義者ならば、汚泥を飲み込む程度には我慢できるというのに、これは共産主義者だ。
本物の。
吐き気を催したくなる。
自分が、相対する世界。
その中に、こういった本物の狂人どもがいるとは!!
さっさと、共産主義者同士、自己批判なり、総括なりして、自浄してくれればよいものを!

目的のためには、何だって許されると勘違いしている共産主義者
宗教の原理主義並みに危険思想であり、連中が夢破れるまで付き合えと?

おお、存在Xめ!よっぽど無神論が嫌いと見える!!
それほどまでに、私を屈服させたいのか!
よろしい、自由意思はなによりも重要だ。
私は、私の愛する自由と権利のために最後の一歩まで譲歩することなく、不断の権利擁護に努めて見せる。

「・・・子供か。無批判になるな!自分の頭で考えよ!君は、騙されているのだ!!」

「つまりは?」

「悟れ!体制の狗だと!」

御立派だ。本当に御立派だ。
自分が正しいと信じてやまない本物どころか純正の共産主義者だ。
そんなに、みんなで貧しくなりたいならば、人を巻き込まずに自分たちで不幸を共有してほしいものだが。
なにより、ここで私に変に言葉を残さないでくれないだろうか。
これは、一種の踏み絵であり、ここで動揺すれば、御目付の教官殿から、何と評価されるか。
いや、私の名目上の指揮下にある銃殺隊への影響すら私には、マイナス評価になりかねん。
全くもって迷惑な存在だ。

「失敬な。私は、諸君が爆破し、吹き飛ばそうとした無辜の市民を守る軍人だよ。」

故に、私は反論せねばならない。
これ以上、このゴキブリに囀られる前に、叩きのめしてでも黙らせねばならない。
故に、演算宝珠を起動。
殺さず、生かさず。この曖昧さはバランスが重要だ。

「自分の頭で考えよか。実に、ご正論である。素晴らしい正論だ。ぜひとも、参考にさせていただこう。」

対象周辺の酸素を瞬間的に消費。呼吸困難になり、口をパクパクさせる姿は、共産主義者のしぶとさか。
しばらくは、さすがに黙っているだろう。
まあ、顔面が赤くなったり青くなったりするのは、生物学的反応として見ておく。
共産主義者なのだから、紅くなるべきだろうに。
赤が見足りなくて、内ゲバなぞやっているのではないのだろうか?

「だが、やはり、考えてみたが下郎の囀りを耳に入れるのは不快なのだ。」

大学で、一番前の席に何故座らないと思う?
簡単だ。アジ演説をする間抜けが未だに大学の学籍にしがみついているからだ。
内ゲバと総括で全滅すればよいものを。
自分達に未来が無いからと、私達を勧誘し、あまつさえ、貴重な時間の効用を低下させる下郎どもがいた。
我々が、適切にその無価値なものを無視することによって、辛うじて時間の浪費を避けているにも関わらずだ。
あの、アホどもはビラを配り、アジ演説をし、立て看板をたてるなど、資源の浪費も甚だしい連中であった。
奴らなど追放してしまう方が、よほど大学の人的資源投資効率上望ましいはずなのだが。
まあ、ゴキブリと同じか?

「私は、あくまでも指揮官なのでな?今殺すわけにはいかないのだ。残念ながら。」

本当に、銃殺なんぞ、趣味ではないものの、共産主義者と赤とマルキストならば、自分でやってしまってもよい気がする。
これが、所謂攻撃性なのだろうか?
組合にしたところで、双方にとって合理的な解決策の模索をするのはまだしも、旧国鉄系のはしぶといと聞く。
一切合財含めて、共産主義者の跳梁跋扈を防止するのは、人類共通の責務ではないのだろうか?
共産主義者が自前で飢えてくれるのは、自由だが、一緒に私を飢えに巻き込もうとすることには、断じて抵抗する。

「このままではいつか破綻する日が来るぞ、であっているかな?」

連中の言うことは、いつもきまっている。
軍靴の足音が聞こえてくるだの、平和万歳だの、武器を捨てて、バンコクノロウドウシャヨダンケツセヨだ。
実に正論だ。
だから、お願いだから、其の正論で持って、戦場の前に立ってほしい。
武装宣言なりなんなり、敵前で勝手にやってほしい。
私と、はっきりと明確に無関係であるという前提条件で。
きっと、きっと、それで私の苦労は半分くらいは軽くなるのだから。

「ふむ、深謀遠慮のほど恐れ入る。」

本当に、彼らは我々の理解できない世界に生きている。
確か、ソ連の未来は電化にありだっただろうか?
建国早々電気椅子を賛美するとは、恐ろしい国家もあったものだ。
私は、民主主義国家で座り心地の微妙な普通の椅子で十分なのだ。
帝国主義襤褸椅子であったとしても、最新のソ連電気椅子はごめんこうむりたい。

「だが、いかんせん、あなた方の言うプロパガンダで、何といったか・・・」

そして、ここはアピールポイント。
反体制派に対してシンパシーを感じるのではなく、攻撃性を持っていることをアピール。
これに理屈付けと模範的な解答ができれば、評価は上昇間違いなし。

「ああ、近視眼的で感情的な生き物なのだ。」

なによりも、最近どうも戦意や体制への忠誠に関して、教官から問われる機会が増えている。
教官が何を考えているか、相手の立場に立って考えてみれば、一目瞭然。
要するに、危惧されているということだ。
指導する立場を任されてはいるので、一応戦意はともかく、帝国への忠誠心皆無という事はごまかせているはずだが。
なににせよ、徹底しておくことにしくはなし。

「私は、私が守るべき人々の敵を撃たねばならない。」

本音で会話するならば、共産主義者は、嫌いだし。
プロ市民もあれだが。
正直、リストラしただけで、会社に対して抗議デモとはひどくないだろうか。
まあ、会社が生活を保証すべきという発想も分からないではないけれどもね?
それは、共産主義の世界の発想だと、どうして分からないのだろうか?

「それで十分ではないのかね?少なくとも、無辜の人々を吹き飛ばすために正論を吐くよりは、よほどましだと思うのだが。」

ああ、昔はさらにひどかった。
大手の企業がテロリズムに狙われることも多かったという。
ビルが爆破されたりと、散々な事も多かった。
共産主義者は爆破と、誘拐と、内ゲバにしか才能がないのかもしれないが。
ともかく、そう言った共産主義者が誤りを認めるかというと、何故か認めないのだ。

「必要な犠牲だった?とでも?。なるほど、悲痛な決意なのかね?」

搾取構造を批判し、爆弾で人間を吹き飛ばすことのどこに正当性を見出すのだろうか?
功利主義的概念から言えば、それで善が為されるならばいたしかたない。
しかし、労働者を労働者の味方と称する連中が吹き飛ばすとは!
なんたるアンチテーゼ!
造反有理愛国無罪?だっただろうか。
世の中、まともな人間が苦労するというのは場所を全く選ばない共通事項なのだろう。
これが、世界的な真理だというならば、なるほど、私もなかなか悟りが開けそうだ。

存在Xが何を考えているのか、不明だが、これが奴の言う解脱なのだろうか?
(おそらく、何も考えていない短期的衝動にかられる存在だと私は疑ってやまないが・・・)
今一つ、わからないが、賢くなった。
知識を血肉とすることができたというのは大いなる喜びだ。

まあ、連中のいう労働者とは奴らの頭の中にだけ存在する不思議ちゃんかもしれないが。
さすがに、そこまでは付き合いきれぬ。
まだ、抑圧された貧困層の宗教的抵抗の方が理解しうる。
何故、精神科医が繁盛するのかよく理解できる。
世界に狂った連中が多ければ、一般人が苦労し、心が病むのだろう。
うむ、狂った連中は、自分から精神科の世話にはならないだろうし。
つまり、ここでの論理的な結論は、一般人のみが犠牲になる理不尽さだ。
許容するわけにもいかない。断じて、この事に対して抵抗する義務があるのだ。

「ならば、我らも百殺一戒で臨まねばなるまい。つまり、これも必要な犠牲ということだ。」

共産主義を許してはならない。
我々はそれを断じて許さない。
こういうスタンスを示す必要があるとしか思えない。
必要な犠牲というよりも、むしろ、必要なコストくらいなのかもしれない。

「ああ、囀るな下郎。どう言おうと、貴様は下劣な屑で、私が正義だ。」

アピールポイント2。
ともかく、有る程度自分達の正当性をアピールしておけば私が銃殺命令を下したところで、同期の諸君も気が楽だ。
私の評価もましになって私もハッピー。
共産主義も減少して、世界もハッピー。
四方八方丸く収まる。
気配りは、社会人のスキルだというが、本当に面倒くさい。

「爆弾魔を、民衆を守るべく射殺する。さて、他に私の行動を定義できるのかね?」

さて、銃殺だ。
手を振り上げ、銃殺隊に銃を構えさせる。
本当は、告解なり懺悔なりをしたい奴らのために牧師がいるはずだが。
共産主義者無神論者だし、それも気にせずに良いだろう。
神がいるのかどうかも、私にとっては疑わしいことだし、無意味な事はしない方がよい。
なにしろ、この銃殺指揮が完了しても、新任の指導計画を提出し、訓練指導をせねばならないのだ。
時は金なり。
黄金よりも重い、時間を、これ以上浪費するわけにはいかない。

「諸君の言う、賢明な市民諸君は、石を投じることは有っても、月桂樹の冠は差し出さないと思うが。」

そう言うなり、手を振りおろし、銃殺を指令。
なにか、良いことを為したような気にすらなれる。
単発の発砲音が、綺麗に揃ってこだまする。
素晴らしい。まさに、完璧だ。
どこぞの、メトセラ風に言うならば、パーフェクトだ!と執事を褒めるところですらある。
この幼女ボディでは、股ぐらがいきり立つこともないとしても、機嫌が上気する。

「ああ、今日は良い日だ。善をなした。」

皮靴から泥を落とし、靴を磨いたような爽快感だ。
あるべき、秩序。あらまほしき世界への貢献をなしたという実感。
たまには、こんな一日も素晴らしい。

そう思いつつ、諸般の手続きを完了。
本日最後のお勤めである新任指導に取り掛かるべく行動を開始。
銃殺隊を解散し、そのまま、次の野戦演習助手として野戦演習場に向かう。
指導教官の手伝いというよりも、半分権限を委託されたような形だ。
遅刻は、絶対に許されない。
魔導士官学校の時間は、有限であり、その有限の時間を徹底的に活用せねばなにもできない。

生き残るために、腐れ眼鏡なみに、深謀遠慮を張り巡らし、何とか、ヤサシニウムを含んだ盾を確保せねば。
それが、できなければ、せめて防御用の干渉式だけでも洗練させてしまいたい。
つまりは、生き残るために何でもしなければならないのに、他人の指導とは!

ああ、面倒だ。面倒極まりない。
しかし、そうは言っても、これをやってのけねば自分の組織における価値が低下するのだ。
それは、自明なことだ。なにしろ、組織にとってみれば、一匹狼など、扱いにくいだけ。
ならば、周囲の価値を高める努力をしなければ、いつかは切り捨てられる。

だから、模範的な指導姿勢を示す。
あるべき、要求されている水準に達するように何をしてでもやってのける。
その決意を胸に、私は、今日も今日とて、野戦演習場にて、銃殺の余韻を楽しむこともなく、声を荒げて指導する。
そのうち、カルシウム不足で背が伸びなくなるのではないかと思うほど、声を震わせてだ。
グッドライフには、健康が不可欠なのだが、どうもいけない。

まあ、いい。

「さあ、始めよう。今日も、楽しい楽しい、お遊びだ。」

演算宝珠を全力で活用。
ライフルの弾丸に干渉式を封入。
演習弾故に、さほどの容量も入れられないものの、まあ吹き飛ばすには十分。

「道具は、用意したかな?問題ないかな?さあ、さあ!!」

演算宝珠とライフル、それにぴかぴかの制服が我ら候補生の三種の神器である。
では、その中でも新任にとって最も価値あるものとは何だろうか?
答えは難しい。
何しろ、演算宝珠は尤も重要な魔導師の武器である。
今、私が握っている宝珠と同型を彼らも手にしている。
ライフルは、兵を兵たらしめているものである。
彼らのライフルは、彼ら一人ひとりのライフルだ。
身にまとうは、野戦演習場で私に汚されるためにぴかぴかに磨き上げられた制服。
ぴかぴかの制服が無ければ、彼らは鬼のように優しい教官殿に可愛がって頂ける。
(どちらを選ぶかは、個人の自由だ。)

そういうわけで、これは実に難しい好みの問題だ。
まあ、私個人としては、汚れることのない制服が一番ありがたいのだが。
なにしろ、演算宝珠で防御装甲を展開すれば、制服が汚れることなどありえん。
それが、できるならば、という条件付きだが。
故に、ぴかぴかに磨き上げねばならないライフルの分解清掃が一番面倒である。
演算宝珠は、定期的なメンテナンスを除けば扱いやすい。
だが、定期的なメンテナンスが相当に手間なのだ。

では、無価値な存在とは何かというのは、極めて簡単である。
それは、私の目の前で横たわっている新任の二号生どもだ。
今日も今日とて彼らは、私を失望させる。

「遺伝子を後世に残すことが、害悪ですらある無能諸君。」

本日は、簡単な攻防演習と、機動防御訓練をベースとした体づくり。
ちなみに、魔導士官は、男性女性の比率が実戦部隊でも比較的イーブンな部門。
であるだけに、ここでも配慮する必要がある。
まあ、さすがに、この身でセクハラ訴訟されるかは微妙だが。
それでも、手順に変更の必要もないだろう。

「諸君を紳士淑女に育て上げるという無理難題が私の職責である」

実弾射撃を楽しむなと言いたい。
トリガーハッピーか?トリガーハッピーなのか?
ただ、弾丸をばら撒けばよいとでも勘違いしている間抜けなのか?
面制圧だの、擾乱射撃だの、そんな戦術的判断は、当てられるようになってからだ。
まして、魔導師の本質は、演算宝珠を活用することを求める。
兵士であるということは、ライフルを使えてなんぼ。
狙ったところに、干渉式をライフルで投射することもできねば、宝珠とライフルの組み合わせも理解していない。
総合職だろうと、一般事務職だろうと、ワードとエクセルが使えてなんぼだというのに。
なにより、反抗心丸出しでこちらを睨みつけてくるといは良い度胸だ。

「だが、任である以上やり遂げねばならない。貴様らは、私が、確実に、泣いたり笑ったり出来なくしてやる」

その反抗心を教育してやる。

と、思ったら、少数の跳ねっ返りと、少数の屈服組。

そして、大多数のサイレントマジョリティとなりました。

さて、どう料理しよう?これ。

⚔️ あとがき


求ム感想!!

※勢いで書いてるけど、作者には特定の人種・宗教に対する偏見はありません。本作は、完全なフィクションです。作中に出てくる用語は、学術的に価値のあるものではありません。

※恥ずかしながら、ミスがあったので修正いたしました。
>岩様、ご指摘いただきありがとうございます。

さらにZAPしました。
さらなるZAPが吹き荒れています。
ZAPZAP