幼女戦記 Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens
⚔️ ああ
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実のところを言えば、オハマは煉獄にすぎんよ。 実際のところを言ってしまうとだ。 だから、壮絶以上の血を血で洗う激戦だった。 地獄はラインというんだ。 無名従軍戦士。 合州国空母艦載機群と防空戦に駆りだされた帝国軍魔導師の激戦下。 だが、沈黙しつつある参謀らに代わり雄弁に物が語る。 縋りついて通信の途絶した部隊に呼びかけ続ける通信兵。 そして、遂に誰もが予期しなかった事態に直面せざるをえなくなる。 『閣下、ご決断ください。』 ノイズ交じりの音声。 『遺憾ながら、防衛線は崩壊しつつあります。』 淡々とした口調。 わずかに、背後から聞こえてくる交戦音は戦局に一刻の猶予すらないことを物語っている。 『直ちに行動を開始しなければ、我々はわずかな可能性すら失いかねません。』 無線越しでなければ、思わず報告者の顔をまじまじと覗き込みたくなるほど平坦な口調だった。 言ってのける口は、単純明瞭な事実の宣言。 「突破は?」 唯一つの望み。 だが、現実はあくまでも厳然たるものだ。 『…最善を尽くしておりますが、後わずかに及びません。』 そこにあるのは、悔しさの色。 敵揚陸艦隊司令部の刈り取り。 もしも、仮に。 それほど、思わずこの劣勢下にあって期待ができるほどサラマンダー戦闘団の奮戦は見事だった。 「では、崩壊が先と?」 『遺憾ながら、そうなる公算が大であると判断いたします。』 声だけ聞けば、如何にも他人事のような口調だ。 だが、その場に立っているものならば逆にことがわかる。 このような地獄において、平坦な声というのは全く別の意味しかない。 これらを押し殺すための、強固な意思だけでデグレチャフ中佐が語っているということを誰もが理解する。 「よろしい。貴官の意見を聞こう。」 既に、ロメールは総撤退を前提とした計画の予備行動を参謀らに命じていた。 『はっ、乾坤一擲の水際機動戦ないし総撤退を提案いたします。』 「…決戦?勝てると思うかね?」 それで、勝てるのならば。 全滅しようとも、攻勢に出ることをロメールは躊躇しなかっただろう。 ほとんど、突破は不可能と彼自身信じかけていた防衛線だ。 疲労しきった帝国軍では、遅かれ早かれ崩壊が訪れかねない。 『今攻勢に出れば、敵上陸部隊には全滅と引き換えに大打撃を与えられる筈です。』 だが、デグレチャフ中佐の解答は希望的観測を徹底的に排した現実的なものだ。 悲しいかな、後方には再度防衛線を構築するだけの兵力はない。 『これにより、最低限度の時間は捻出し得るかと考えます。』 確かに、デグレチャフ中佐の言うとおりだろう。 だが、逆に言えば今ここに貼り付けた部隊は全滅だ。 「勝てないというのだな?」 『残念ながら。総撤退ならばこちらの戦力を温存し得ますが、同時に敵戦力も健在となります。』 消耗を抑制しつつ、時間を稼ぐ。 押し勝つか、押しつぶされるかの二択だ。 故に、彼には押しつぶされることを避けるしか道は残されていなかった。 しぶといゴキブリを追い回すような感覚。 もしも、総攻撃が発動されれば一目散に『遊撃戦』に移行し離脱する覚悟すら決めたのだ。 『総撤退を発令する。』 ロメール将軍による撤退の決断。 それだけに、ロメール閣下の即断はまさに福音としか思えなかった。 「…っ?、失礼いたしました。了解です、閣下。」 嫌な感じ。 ノイズは無視して、これからの事に意識を集中させる。 『中佐、貴様の隊は殿軍を志願するか?』 つまり、こんなわかりきった殿軍の要請には断固として応じる訳にはいかない。 近代的合理精神に基づいて考えるならば、死を回避するのは当然の帰結である。 「…失礼ながら、閣下。差支えなければ退路掃討に志願します。」 故に、保身とバランス感覚に優れる人間ならば誰でもこうするに違いないだろう。 『何?退路掃討?』 「空挺部隊の掃討が完了しておりません。はっきり申し上げると、退路が寸断されかねないでしょう。」 本来ならば、掃討されきっている筈の空挺部隊。 対空砲火も充実させていることを考えれば、組織的に降下することすらままならなかったに違いない。 そう、本来ならば。 予備戦力として掃討部隊を抽出。 例えば、交通の要衝にあたる架橋を爆破されればそれだけで詰む部隊も出てくることだろう。 『野戦憲兵が安全は確保しうる筈だ。』 そのために、一定程度の要衝は野戦憲兵が防衛している。 だが、ターニャにしてみればそんな理由など知ったことではない。 というよりも、本音で言えば退却する友軍も知ったことではないのだが。 「御尤もです。ですが、共和国は後方浸透を行う特殊作戦群を有しております。」 だが、しらじらしく口は如何にも説得力ありげな言葉を口ずさむ。 魔導師にとってみれば、一番安全な戦いとも言えるだろう。 『…アレーヌのことか?』 実際、アレーヌでは魔導師部隊の排除に苦労したものだ。 あれでもエスカルゴとて国家理性を信奉する理性ある存在も数多く存在するのである。 「その通りであります。我々が袋の鼠となる危険性は無視すべきではありません。」 まあ、厳密に言うならば。 『…一理あるな。よろしい、先行し退路を確保せよ。』 「拝命いたします。殿軍が後退する頃には掃討を完了してご覧にいれます。」 そうして、さっさと離脱するための手順をターニャは開始する。 故に、大変不本意極まりないが離脱を優先。 部隊を再編し、再突撃を装い後方に急速離脱。 そのいずれも、火力で爆砕し退路掃討は実に順調だった。 それだけに、油断してしまっていた。 『っ!中佐殿!』 『対魔導師戦闘用意!各自任意に散開せよ!何故、ここまで近づかれた!?』 撤退支援任務中の接敵。 むしろ、よくある話だろう。 だから、ターニャとしては実に運のないと歎きつつも応戦する羽目になる。 なにしろ、接敵した自由共和国特殊作戦群にしてもこんなところで接敵するとは夢にも思っていなかった。 【何故、こんなところに帝国軍魔導師が!?】 それだけに、混乱の波及は一応掃討を覚悟していた帝国軍よりも深刻となる。 『各自、乱戦に備えよ!突破後、再編する!』 入り乱れた戦局故に、ターニャが指示できたのは乱戦に対して備えろという単純な命令一つ。 ターニャは咄嗟に突破を決断し、各個に突破を図るも混戦に突入。 ターニャが率いているのは、離脱したばかりの魔導師大隊。 いや、そもそもそれはヴァイス少佐にしても。 『中佐殿、申し訳ありません。』 『…以後、留意せよ。他に言う事はない。』 素人ですら、対魔導師警戒の重要性を理解しているというのに。 伏撃専門の演算宝珠でも開発されたかとも疑ってみるが、敵の術式等にこれといった差異も見当たらない。 幸いというべきだろうか? こちらの兵士は疲労困憊してはいるが、連戦疲れを見せずに今のところは戦えている。 『敵の技量は案ずるほどではない。だが、油断はするな。着実に落とせ。』 『『『了解しました。』』』 故に、撃墜スコアを伸ばす結果になるだろうと判断。 だからこそ、安全策を追求しておくに越したことはないと判断。 『戦闘団長より、各位。陽動する。釣られた馬鹿を仕留めろ。』 『り、了解しました!』 火力の規模からいって、統制射撃を受けない限り自分への脅威にならないと判断。 『交差射撃で仕留めろ。忠告しておくが、私に直撃させればタダでは済まさんぞ。』 『はは、さすがにそんな命知らずな真似はできません。』 そうか、そこは理解しているのだなと満足しつつ、敵を錯乱させるために突入。 加えて、敵練度の低迷が自由共和国軍に限っては深刻だった。 しかし、何というべきだろうか。 『悪い予感というものは、あたるものだな。司令部に通報だ。』 取りあえず、回避機動を取りながら長距離通信は片手間なので部下に命令。 『了解。司令部へ送信、我、有力なる共和国軍魔導師と遭遇せり。以上。』 とはいえ、地理的状況が異なるのだろう。 考えてみるまでもないことだが、ここは連中の祖国だ。 そんな連中と遭遇できたのは、運が良かったに違いないと考える。 『やれやれ、ここで会敵していなければまずかったですな。』 『全くだな、少佐。さて、残りを落してしまおう。』 その日、メアリーにとって事態はあまりにも絶望的だった。 こんな状況において、彼女の上官はとことん分からず屋の様であるのだ。 だが、戦争をしている以上何が必要かという事は理解しているつもりだった。 だというのにだ。 「追撃なさるべきです!それも、今可及的速やかに。」 「・・・スー少尉。我々の任務は、埠頭の防衛だ。」 彼女の上官は、まるで彷徨える羊の様に無気力で決断力に欠ける表情をしている。 だから、少なくとも疲労しているドレーク中佐に同情と共感を覚えない訳ではないのだ。 「重要性はわかりますが、犠牲になった仲間のためにも追撃は必要です!」 戦いに犠牲が出るのは、もちろんメアリーにとって大変つらいことだ。 ここで歩みを止める訳には、いかない。 「正気かね、少尉!?」 「中佐殿こそ、お疲れではないでしょうか。」 そう考えるとメアリーにとってドレーク中佐も、1人の迷える子羊だった。 あの悪魔。 無理もないと、メアリーは感じる。 「…なに?お疲れだと?」 「はい、中佐殿。お休みになられてはいかがでしょうか?」 そう思えば、メアリーにとって敬愛する上官をいたわるのは当然だった。 そこに、偽りはない。 「・・・・・・・・・・・・・・それで?貴様はどうするというのだ。」 「ご安心ください。中佐殿を惑わす悪魔はこの手で必ずや。」 疲れ果てた顔のドレーク中佐殿。 あれほど、疲れ果てて打ちひしがれているというのはメアリーにとって救済すべき1人の迷える人間に思えてならない。 「ならばこそ、私の仲間たちだけでも行かせてください。」 このドレーク中佐も仲間を、部下を、戦友を失った犠牲者だった。 「…本気で言っているのかね?」 「もちろんであります。増援は無用です。どうか、御許可を。」 そして、彼女の誠意は通じる。 かくして、決意も新たにメアリー達は飛ぶ。 あとがき 予想外の時間を突いてこそ、奇襲効果は抜群! とまあ、テンションおかしいのですがお休みなさい。 頑張って、更新します。 ついでに、ZAPします。⚔️ 第八〇話 カルロ・ゼン 2012.04.12 01:04
軍歴で一番の地獄?
ああ、オハマだと思っているのだろう?
アレは、所詮煉獄でしかない。
まあ、人の身にとっては既に耐えがたいものではあるのだがね。
第二次ライン戦線の方が過酷だったよ。
まあ、なにしろ帝国軍には次が無い。
良く、ラインは地獄だったというだろう?
違うんだ。本当は逆だ。
そりゃ、悪魔の一つくらい湧いても当然に違いないだろう?
『第二次ライン戦について』
戦艦の主砲弾直撃にも耐えうる偏執的な強度で吶喊構築された帝国軍司令部。
世界で最も強固にして、安全な筈の司令部にもかかわらず居並ぶ面々の表情は蒼白だった。
書き込まれた地図が、通信が途絶えた部隊が。
圧倒的物量の奔流を浴び続けている帝国の惨状を物語ってやまない。
呼んでいる方も、理解しているのだ。
もはや、そんな部隊は何処にも存在していないという事実を。
お世辞にも、聞き取りやすいとは言いにくいソレ。
だが、雑音混じりのその声が司令部を支配する。
もしも、知らずに聞けば事の重大さを理解しかねるほど平易な声である。
だが、その内容は激烈を極めるのだ。
かすかな着弾音と思しき爆音と、魔導師らが術式を展開する轟音。
何れにしても、戦場の過酷さが息吹きとなって飛び込んでくるような臨場感がそこにはある。
医師が、末期の患者に対して症状を告げるのと同じ口ぶり。
敢えて冷静かつ平易な口調による説明ぶりを想起させる。
或いは、ロメールの最後の頼みとするもの。
屈辱を堪えるような、激情の込められた口ぶりからデグレチャフ中佐の感情が理解できる。
戦局を読めば、誰だろうと中佐とその部隊が意図したことが理解できるだろう。
特殊兵装ないし、あとわずかな増強さえあれば成し遂げられたであろう偉業。
だが、上からの不十分な援助によってあと一歩というところでデグレチャフ中佐の攻勢は頓挫した。
サラマンダー戦闘団が東部で摩耗していなければ。
或いは彼らだけで所定の目標を達することも叶っただろうに。
だが、奴らほど奮戦し力戦した部隊があっても勝てないという事が彼我の物量差を物語る。
何も知らなければ、無責任であると軽蔑することだろう。
実際、文字だけを見れば逼迫した戦局で悠長なことだと見なされうるものだ。
なにしろ、平坦な声の背景音は激烈なまでの交戦音。
そして、時折交じってくるノイズと悲鳴が生々しい臨場感を保ち続けて止まない。
人事を尽くし、人力の限りを尽くし、その上で及ばないという虚脱感。
或いは、抑えきれない激情と戦線の崩壊を目の当たりにしての動揺。
ロメールにしてみれば、拘泥し引き時をあやまりたくはない。
だが同時に、最前線の嗅覚を踏まえた上での提言を受け入れる心づもりで話を聞く。
彼にしてみれば、戦理があれば好機をとらえて動くつもりだ。
海岸線から、敵を押しだせるのであれば。
デグレチャフ中佐の熱意と偏執的な防衛線構築を間近で見てきた彼だからこそ、そこに迷いはない。
これほど優位な状況を保って敵と対峙できるのは、この機会以外にありえない。
なにしろ突破されれば、以後はこの防衛線を突破しうる敵と平地で機動戦となる。
なるほど、地上部隊に大打撃は与えることが可能になる。
友軍が強力であれば、彼我の損害比から敵を消耗させるという消耗抑制ドクトリンに適った方策だ。
最低限度、敵が部隊を再編する時間は捻出できるに違いない。
そうなれば、放置されている旧ライン防衛線で防衛設備を再稼働させる時間くらいは捻出できる。
結局のところ、ロメールに選択肢はない。
いや、そもそも初めから選択肢などなかったのだ。
牽制射撃と重対艦術式の発動は、さすがにストックがあっても摩耗する。
これ以上は限界だった。
まあ、幸いにも。
その覚悟というか、自己保身のための決断は無駄に終わる。
疲れ果て、崩壊に瀕している戦線にとっては待ち望んでいたものである。
ターニャ自身、押しきれずに困窮しつつあったのだ。
これは、素晴らしい英断であると言わざるを得ないだろう。
まるで、健全な自由と尊厳が冒されるような違和感。
だが、ともかく今は戦争だ。
生き残ってから後悔する方が絶対に賢明に違いない。
もちろんロメール閣下とは今後も良好なお付き合いを望むところではある。
だが、どう考えても自分自身の死刑執行書類にサインするような任務に志願する訳にはいかないだろう。
というか、何が悲しくてそんな危険を侵さねばならないというのだろうか?
ありえない発想であるとしか言いようがない。
そう考えながら、ターニャは自分の安全を考慮しつつも役に立つような代替案の提案を行った。
なにしろ、来るとわかっているのだ。
降下に適した地点は泥沼にするか、地雷原にしておいた。
加えて、少数とはいえ広範に掃討部隊を配置しておいた。
本来ならば、掃討されているべきほど入念な手配りが為されていると言える。
加えて、降下してきた連中の規模は他と同じく膨大だった。
実際のところ、防衛線ならば大した脅威でないのは事実。
しかし、撤退する最中には中隊程度の敵兵といえども大きな災厄足りえる。
橋、主要な交通起点などは最低限度の防衛設備も整っているとは言えるだろう。
なにしろ史実では散々空挺降下に悩まされたことを知っているのだ。
対策の必要性は実際のところ存在すると考えている。
まあ、自分の優先度が友軍よりも高いのだが。
実際のところ、そこまでいかずともパルチザン程度は湧くことも覚悟しておくべきだろう。
つまり、非正規戦である。
すくなくとも、防殻を一撃で撃ち抜く重砲を相手にしなくて済むのだ。
まあ、魔導師が敵に交じっていれば厄介事だが。
最も、大半をそこで不幸な火災が焼き払ってくれたのでもう同じ真似は敵もしないだろう。
さすがに、連中も学習するに違いないとターニャは敵の知性を見積もっている。
まあ、過去の実績があるのでそれを強調することで真っ先に転進する口実には使わせてもらうが。
我々ではなく、自分なのだが。
実のところ、メアリー・スーなる糞袋を叩き落としたいという欲求は未だに残っていた。
だが、数十発の術式を曲りなりも耐えている相手である。
加えて何故か『試練』だの『神の栄光』だの恍惚と呟くアレ相手は面倒だった。
幸いにも、追撃もなく部隊は楽々と近隣都市のカルーン方面に向けて離脱を開始。
比較的順調なことに、敵空挺部隊とは散発的な銃撃戦に至る程度。
だが、正直に言えば実に不愉快なことなのだが。
ターニャらにしてみれば、追撃を振り切ったと判断した矢先。
それだけみれば、決して珍しくもない話だ。
最も、自由共和国特殊作戦軍魔導師らにしてみれば化け物じみたネームド共にはち合わせたのだ。
これだけ見れば、どちらが不幸かは分からないが。
もっと後から、包囲されて慌てふためき後退する帝国軍部隊を安全に叩く予定だったのだ。
最も、逆にそのために入り乱れてしまい帝国軍も隊形を乱さざるをえなくなったのは不幸中の幸いだったのだろう。
入り乱れた状態で、各自がツーマンセルすら維持できなくなる。
手当たり次第に至近の敵魔導師へ術式を叩きこむも、状況は望ましくなかった。
退路確保を兼ねての長距離行軍の予定が、増強大隊規模の敵魔導師部隊と会敵。
自分らしくない不手際だった。
グランツやその他の古参兵にしても。
誰もが、不覚にも気が付かなかったという点で異常だった。
何故か索敵警戒中にも関わらず、至近に近づかれるまで発見できていなかった。
別段、卓越した隠蔽が行われているわけではない。
交戦してみた感触は、力量は悪くはないが別段卓越したほどのものでもないのだ。
わずかばかり雲量があるため、見落とすことは可能性としてなくはないが。
いや、気が付かない筈はないのだ。
同時に、相手の兵士は技量が並み以上だ。だが、言い換えれば並み以上程度でさほどの脅威でもない。
まあ、手間取っている事と火力が貧弱になってはいるのだが。
そして同時に、慎重に対応する必要性をも認める。
なにしろ、予想外の事態というものは油断した時にこそ生じるのだ。
自己保身を優先する。
安全性の観点から言えば自分が動きまわるほうが望ましく、さらに言えば部下を活用することもできた。
ひらりひらりと防御を固めて避けるだけの方が、攻撃に気を割くよりも安全なのは自明だ。
ほとんど碌に照準すら合わせずとも、巻き込むだけならば爆裂術式をやたらめったら乱発すればよい。
統制を重視する連中にしてみれば、それだけでかなり容易に掻き乱せた。
はっきり言えば、ライン戦の時に比較して連中の技量は劣悪になっている。
まあ、本国を占領されて補充も何も欠落していることを思えば逆に此処まで鍛え上げたことを賞するべきなのかもしれないが。
明らかに都市戦を志向した装備の魔導師部隊とどんぴしゃで遭遇してしまうとは。
実際のところ、正直遭遇するとは思ってもいなかっただけに意外だという気持ちは強い。
せいぜいパルチザンくらいだと思っていたのだが。
その気になれば、愛国者が一山いくらでかき集めることも可能なのに違いない。
つまるところ、不慣れな都市戦で摩耗させられる可能性すらあった。
おかげで、戦場からの『転進』に正当性が付く。
これで、危惧が現実のものになったという事で自分の名声も保ちえるというものだ。
身を呈して友軍を守ったにもかかわらず、多くの犠牲が地上部隊にはでてしまっている。
あまつさえ、彼女に続き味方を守るべく身を呈した信心深い者達は気高い精神ゆえに散華してしまっていた。
自明な状況であるというにもかかわらず、後退を開始している敵をみすみす見逃そうとしている。
正直に言って、彼女も敵の苦境に付け込むのは好きではない。
追撃戦時において、戦果が最大化できるというのは常識だ。
なにより、主の御心のままに軍を進めるべきだという事は疑う余地もない。
確かに、激戦で疲労したのだろうという事はメアリーにも理解できた。
彼女にしてみれば、疲れ果てた人間に鞭打つというのは本意ではない。
ただ、メアリーにしてみれば他にも優先するべきことは明白だった。
気高い精神で散っていた殉教者らの殉教に応えねばならないと信じている。
悲しみに暮れ、思わず彼らの魂の平安を主に彼女は祈ってやまない。
だが、だからこそ殉教した彼らのためにもメアリーは手を止められないのである。
そうでなければ、犠牲になったものが悼まれないではないか。
なにしろ彼は多くの部下を、この戦いで卑怯な卑劣漢に落されているのだった。
心中の苦労や悲嘆は、多くの仲間を失ったメアリー同様に非常につらいものに違いない。
あの卑劣な輩。
信じがたい背教の輩。
天命を受けた彼女ですら、試練の過酷さに慄くことがあるのだ。
ドレーク中佐にとってみれば、その過酷さに耐えられないとしても不思議ではなかった。
信心深い彼女にとって、隣人の心境を慮るのは当然の配慮。
むしろ、今の今までそれに気が付けなかった自分をメアリーは神に懺悔する。
それを確認し、やはり自分の考えが正しいことをメアリーは確信する。
あれだけ、自信と誇りに満ち溢れていたドレーク中佐。
連合王国のジェントリを体現していたような人間がだ。
神のお導きのよろしきがあればこそ、それを理解できたのだろう。
自らの至らなさと、主の偉大さを噛みしめつつメアリーは決心を新たにする。
と、少なくともメアリーは感じた。
なにしろ、ドレーク中佐は出撃許可を快諾。
それどころか、彼女に同心するものらを派遣することに助力までしてくださったのだ。
怨敵をうち払わんと正義の決意も新たにして。
こんな時間に更新?
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夜討朝駆けは武門の基本!
睡眠時間は放り投げるモノ!
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