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『新・家の履歴書』インタビュー


高層団地の部屋の窓からいつも外を眺めていたので、物事を俯瞰して見る癖がついたのかも。

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恵比寿駅から徒歩2分のマンション

初連載作『TRUMPS!』の最終第2巻(1994年12月刊)の刊行直後、23歳で家を出る。初めて一人暮らしをした家は、JR山手線恵比寿駅から徒歩2分のマンションだ。


出版界が1番景気の良かった時期なので、新人でもコミックスの初版は3万部から。その印税が入った瞬間、引っ越しました。家族と離れなければ自分も壊れてしまうと思ったんです。

部屋は、友達経由で知り合った不動産屋さんから紹介してもらった4階建ての4階で、狭いキッチンと6畳間の1K。昔の物件なので押し入れが大きく、私の机と、アシスタントさんの机を兼ねたちゃぶ台、漫画の道具以外はそこへ放り込んでおきました。

別冊フレンド」との専属契約をやめたことも大きかったんですが、引っ越した途端、一気に仕事が増えました。締め切り前はこの部屋にアシスタントを3人入れるようになり、時には原稿料よりアシ代の方が高くつく(笑)。アシ代を稼ぐために、連載をどんどん掛け持ちするようになりました。

傷だらけのヒロイン・重田加代子が疾走する
ハッピー・マニア』が大ヒットし超多忙に
フリーになって初の連載が、大ヒット作『ハッピー・マニア』(「FEEL YOUNG」1995年8月号〜2001年8月号)だ。付き合う前にセックスし、違うと思えばすぐ次の男に乗り換えて、傷だらけになりながらも本当の恋を掴もうとする重田加代子は、恋愛漫画のヒロイン像を塗り替えた。


FEEL YOUNG」は岡崎京子さんと桜沢エリカさんという、二大オシャレ漫画家が描いている雑誌。センスやかっこよさでは勝負しようがないし、セックスに関しては内田春菊さんが死ぬほど描いている。私に残された武器は、笑いしかないなと思ったんです。正直、やぶれかぶれでした(笑)。

当時よく誤解されたんですが、シゲカヨに自分を重ねて描いてはいません。自分とは離れているからこそ、あんなに痛々しく暴走させることができたんです。普段から、物事を俯瞰で見る癖があるんですよね。漫画を描く時も、主人公が陥る状況に対して引いた視点から「こういう見方もあるんじゃない?」「こっちの道は?」と考えて、1番面白い選択肢を選んでいる。俯瞰で見る癖はもしかしたら、高層団地の部屋の窓からいつも外を眺めていたことで培われたのかもしれません。

3DKのマンション

2年後、恵比寿と広尾のちょうど真ん中に位置する3DKのマンションに引っ越した。「やはり公団っぽいマンション。実家に雰囲気が近い部屋を選んでしまいがちでした」。途中で原宿に仕事部屋を借り、自宅と分ける生活が始まる。


代官山に自宅マンション


ほどなくして、28歳の時、代官山に自宅マンションを買いました。しばらくは代官山の自宅から原宿の仕事場に通っていたんですが、恵比寿ガーデンプレイスの近くに新しい仕事場を借りて。そこは内装もこだわりまくりで、私の趣味が1番出た部屋だったかもしれません。目に入るものは、自分が美しいと思うものであって欲しかったんですよね。仕事をする時はきちんと化粧をして、ヒールのある靴も履いていました。でも、家ではだらーっと(笑)。仕事とプライベートの切り替えをきっちりしたかった。

約1年の交際を経て、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』で知られる庵野秀明監督と入籍したのは、自身の31歳の誕生日である2002年3月26日。2005年には、『シュガシュガルーン』で第29回講談社漫画賞児童部門を受賞。
結婚後間もなく、夫婦で鎌倉の古民家を購入した。リフォームを完成させ入居したのは、2006年春だ。

カントクは最初、別居婚にしようと言っていたんです。私も急に環境が変わるのは大変だからそれでいいなと思っていたんですけど、カントクはうちに来たっきり自分の家に帰らない。それ以来、ずっといます(笑)。ただ、代官山のマンションは、自分は一生結婚しないだろうから、女性1人で暮らすのにちょうどいい物件だと思って買ったんです。それなのに、ものすごい量の漫画とDVDを携えたおじさんが移り住んできてしまった。うちへ帰ってくるたびに物を増やすんですよ。カントクにも一部屋与えたんですが、すぐぎゅうぎゅう詰めになってしまって。ここは私の事務所にし、2人で家を建てようという話になりました。

鎌倉の古民家

探し始めて3カ月目にたまたま巡り合ったのが、鎌倉の古民家付きの土地でした。和洋折衷で窓枠が全て木でできていて、どこか懐かしさを感じるその家に、二人とも一目惚れしました。昭和30年代に建てられた家なので、不動産屋さんからは壊して新築したほうが安くつくと言われたんですが、直して住むことにしました。元は趣味人のおじさんが建てたそうで、蘭を育てるための温室があったり、金魚用の立派な水槽が焼き物タイルで作りつけてあったり、お茶室があったり。1番お気に入りの部屋は2階にある日の当たる座敷なんですが、子供の頃に過ごした世田谷の祖父の部屋に似ているんですよ。

鎌倉の自宅と代官山の仕事場を往復する日々は、2008年3月まで続いた。直前まで7本の連載を抱えていたが、体調不良のため『オチビサン』以外の連載を休止する。
休養中は、鎌倉の自然に助けられましたね。庭や家の周りを歩きながら、都会ではなかなか気づけない四季の移り変わりを味わう中で、多忙な頃に溜め込んだ心身の疲れがほどけていき、少しずつ少しずつ回復していきました。

庭は160坪ぐらいあるんですが、もともと80坪でした。ある朝、カントクがゴミ捨てから帰ってきて、「なんか隣の家を買うことになったよ」と。隣の家のご主人とばったり会って、できるだけ早く処分したい、安くするからと声をかけられたんです。建物自体はボロボロだったので更地にし、庭を拡張しました。

今の季節は庭にある梅の木の実をもいで、梅酒や梅シロップを毎年作っていましたね。新緑のモミジって本当に綺麗で、周り中が真っ青になるんです。竹やぶの下には、アヤメの仲間のシャガという涼しげな白い花が咲いていました。その隙間からトカゲやカナヘビ、ヤモリがにょろにょろと。結婚してすぐの頃に飼い始めた猫のジャックが、いつも彼らを狙っていました(笑)。

2013年11月、5年8カ月ぶりとなる長編新連載『鼻下長紳士回顧録』を執筆開始。4年半かけて描き継がれた同作は、第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した。現在は『ハッピー・マニア』のシゲカヨが45歳となって再登場する、『後ハッピーマニア』を連載中だ。


ハッピー・マニア』は世の中の「結婚=幸せ」という考え方に対する違和感を描きました。『後ハッピーマニア』では「不倫=離婚」「離婚=不幸」という考え方を疑ってみたいな、と。パートナーが不倫したからといって世間の尺度に合わせて離婚しなくたっていいし、たとえ離婚することになったとしても、夫婦として過ごした時間の全てが不幸なものとなるわけじゃない。そもそも自分が幸せかどうかは自分で決めればいいんじゃないのかな、と。

都内のマンション

鎌倉の家は、年齢的に2人とも都内への通勤が厳しくなり、人に貸しました。今はカントクと2人で、都内のマンションに暮らしています。
お互い似たような業種のせいか家にいても結局仕事の話をしてしまいます。何しろカントクもずっと、自分が20年以上前に手がけたアニメの続編(『シン・エヴァンゲリオン劇場版』)を作っていますから。毎朝ご飯を食べながら、続編の難しさについて話し合ったり。消化に良くないですね(笑)。