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饗応膳 『 天正十年安土御献立 』

  
饗応膳 『 天正十年安土御献立 』

天正 ( 1582 ) 十年五月十五日、十六日の
 四度もてなされた。

一の膳

 金高立入、蛸(湯引たこ)
 鯛の焼き物
 菜汁
 膾(なます)
 高立入、香の物(大根の味噌漬)
 鮒の寿司⑦御飯

二の膳

 絵を書いた金の桶入、うるか(鮎の内臓の塩辛、今回はこのわた使用)
 高立入、宇治丸(鰻の丸蒲焼き 
 ほや冷や汁  
 太煮(干海鼠に由芋を入れて味噌煮にしたもの)
 絵を描いた金色の輪に乗せた貝鮑
 高立入、鱧(照焼き)
 鯉の汁

三の膳

 焼き鳥(鶉・うずらの姿焼き、当時は雲雀・ひばり)
 山の芋鶴汁(鶴とろ汁味噌仕立て、鶴はフランス産使用)
 がざみ(ワタリガニの一種)
 辛螺・にし(にしがいの壷煎、巻貝の一種)
 鱸・すずき汁

四の膳

 高立入、巻するめ
 鮒汁
 高立入、椎茸
 色絵皿入、鴫・しぎ壷(鴫の壷焼き、なすの田楽)

五の膳

 まな鰹さしみ
 生姜酢
 鴨・かも汁(鴨の味噌汁)
 けずり昆布
 土器入りのごぼう

足付の縁高御菓子

 から花(造花)
 みの柿(干し柿
 豆飴 くるみ
 花昆布
 求肥餅(羽二重餅

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十五日おちつき膳

(1)たこ
タコはゆでて、いぼを取り皮をむいて使う。これは腐敗を防ぐためという。
(2)たいの焼物
タイの料理はひれを立派に立てることが礼儀で「ひれ立ての事」という盛りつけのきまりがあった。
(3)な(菜)汁
青菜を入れた、すめ味噌の汁。「みめみそ」とは味噌汁の上澄みを取った汁のこと。
(4)なます
コイのなます。身を細く切ってワサビ酢で和える。
(5)香の物
味噌の漬物。古来より味噌のことを香といった。
(6)ふなのすし
フナのナレズシ、近江・美濃の特産。
(7)御飯
二膳
(8)うるか
アユの内臓・卵を塩漬けにしたもの。
(9)うちまる(宇治丸)
ウナギを丸のまま焼き、醤油と酒を合わせたたれを付ける。醤油の使用はこの頃始まったばかりで珍しい高級調味料であった。
(10)ほや冷汁
ホヤは古来より珍味とされ、ナマコに似たさわやかな香りと歯触りが好まれた。
(11)ふとに
ナマコを干したホシコにナガイモを入れて巻き、すめ味噌で煮る。
(12)かいあわび
アワビは古くから貝の王者として賞美され、不老長寿の縁起ものとされた。
(13)はむ(はも)
ハモはこの頃から流通過程にのり、京、大阪で盛んに食べられるようになった。
(14)こいの汁
「鯉にまさる魚はない」と『四條流庖丁書』(1489)にある。
三膳
(15)やきとり
鳥といえばキジ。塩焼きか、クルミ酢をつけて焼いた。
(16)つる汁・やまのいも
ツル肉は皮、脂を除き塩漬けにしたものを、薄く切ってゆでて汁の具とする。
(17)かざめ
ワタリガニのこと。室町後半から安土桃山時代の武将の饗応膳に多く見られる。
(18)にし
ニシの身は辛みがあるので、この特徴を生かして、ケシの実や、タデ、コショウをすりこんで更に辛く、おいしくと調理法も工夫された。
(19)すずき汁
室町時代以降、美味な鳥・魚を「三鳥五魚」として定め、スズキはタイ、コイとともに五魚に含まれる。
与膳
(20)巻きするめ
するめを巻いて、ひもで結び数日おく。さっとゆで、薄く切る。正式の儀式料理に用いる。
(21)鴫つぼ
ナスの真ん中をくり抜き、酒で煎ったシギ肉をつめて柿の葉で蓋をし、藁でからげる。「手の物」といわれた料理の一つ。
(22)鮒汁
近江鮒として琵琶湖の特産。
(23)しいたけ
煮染。味付けにはすめ味噌が使用された。
五膳
(24)まながつお刺身
身を薄く切って刺身にする。
(25)生姜酢
マナガツオの刺身に付ける。醤油が普及する以前、刺身に添える調味料は酢であった。
ごぼう
室町中期以降、生産量が増加し、消費が増えた。煮ごぼう、酢ごぼうとして食した。
(26)鴨の汁
カモの渡りシーズンは8月下旬から翌年2月下旬とされており、塩漬けされた肉が使用されたと思われる。
(27)削り昆布
コブを6〜7cm縦に切り込みを入れ、火にあぶるとコブが強くたつので、これを盛る。
御菓子
(28)ようひもち(羊皮餅)
わからない。現在の大福餅のような菓子ではないかと推測される。
(29)まめあめ
大豆を煎りあめでからめた菓子、当時の茶会で使用。
(30)美濃柿
美濃国岐阜県)は木練柿(甘柿)の産地として有名であった。
(31)花に昆布
コブを柔らかく煮て花形に切ったもの。
(32)から花
檜のうす板で作った実在しない花。膳を華やかにするため添えた。

十五日晩御膳

本膳
(1)みつあえ
煮物三品を盛り合わせたもの。
(2)こまごま
「あえまぜ」のように数種類の食品を細切りにして、煎り酒で和える。するめ、アワビ、干魚、キクラゲなど。
(3)鮎のすし
室町時代に作られるようになったすし。漬ける日数が少ない(3〜10日)ので漬け込みに使ったご飯も一緒に食べられる「生成」といわれるすし。
(4)ひたい
三枚におろしたタイの身を天日で2〜3日で干しあげる。
(5)御飯
二膳
(6)串あわび
貝からはずしたアワビを2枚にそぎ切りし、串にさし天日に干す。
(7)こち汁
すまし仕立てにし、ひれ立てする。コチはひれを立てる魚である。
(8)奈良漬け
野菜の粕漬け。奈良地方でつくられ始めたところからの名。
三膳
(9)角煮
煮あわびを薄く切り、盛る。
(10)たいのあつ物
煮鯛。三枚におろしたタイをたれ味噌の中で煮る。
(11)つぼ
折二かう
折りとは木を折り曲げて箱にしたもの。足のついた台にのせる。
(12)角盛り
骨、皮を取り去ったカツオを角切りにして、酢煎という煮物にする。
(13)ふくらいり
ナマコを大きめに切り、だし、たまりの中で煮る。
(14)きしませにぶどう
料理書に載っていないので不明。当時青いぶどうを料理にのせ装飾に用いたとある。
つぼもり
折二かう
外いろいろ
※館内での展示は、五月十五日の「おちつき膳」「晩御膳」のみになります。


十六日御あさめし膳



十六日御あさめし膳
十六日御あさめし膳
十六日御あさめし膳
本膳
(1)うちまる(宇治丸)
(15日おちつき膳参照)
(2)鱒の焼き物
マスは近江の特産物であった。切り身に塩をして焼いた物。
(3)汁
白味噌の汁にサトイモ、細切りゴボウを入れる。
(4)鮒のなます
フナの身を細切りにし、煎り酒と酢で和え盛る。
(5)うど
季節はずれのウドである。冬に採ったウドの根を瓶などに入れ芥をかぶせ、地中の白く柔らかい芽ウドを茹でて食した。
(6)このわた
ナマコの内臓を塩漬けにしたもの。
(7)御飯
二膳
(8)ひばり
江戸時代以前は野鳥はよく食されていた。5月頃より産卵期に入る野鳥は旬の食材であり、骨付きのまま焼き鳥にした。
(9)かれい
煮鰈。カレイの切り身をたれ味噌の中で煮る。
(10)たいの汁
すまし仕立て、ひれ立て。
(11)干鱈の削り物
干鱈を小さく切って火にあぶり、細かく手で裂きすり鉢ですると、毛のようにふんわりできあがる。
(12)麩の小串
生麩を串にさし、たれ味噌をつけてあぶったもの。
(13)いか
表面に食べやすいよう切り込みを入れる。
(14)冷や汁
焼きなすの冷や汁。すまし仕立て。
三膳
(15)しほひき
魚の塩漬けのこと、サケがよく使われた。
(16)雁の汁
ガンは鷹狩りの獲物としてツルとともに尊ばれた鳥で、ガンの汁はガン料理中で最美味とされた。
(17)もりあはせ
切り蒲鉾・焼き鮎・酢ごぼうの盛り合わせ。
(18)すきかかり
杉板の上や、杉箱の中で魚や鳥肉をたれ味噌で煮たもの。杉の香りが移るとして喜ばれた。
(19)とさかのり
紅藻類の海藻で鮮やかな色彩が喜ばれ食膳に供された。
与膳
(20)大鱧
大型のハモを半分に切り、アラメを中に入れ、重ねて巻き、ゆでて薄切りにした。
(21)つべた
巻き貝の一種。当時は淡路が特産地であった。
(22)山の芋ひしお煎りあまのり色々
皮をむいたヤマイモを柔らかくゆでる。魚や鳥の肉をすり鉢ですり、たれ味噌に入れ火にかける。この味噌だれをヤマイモにかけ、上にきざみユズを使用し、アマノリを添える。
(23)そぼろ
干鯛を洗い、火であぶり、まな板の上で槌で叩きほぐす。それをすり鉢ですり、毛のように柔らかくする。
(24)すずき
スズキの刺身は大ぶりに切り、重ねて盛る。タデ酢を添える。
(25)蓼酢
(26)かけいり
団子状にした魚のすり身を串にさし、たれ味噌をつけながら焼く。
(27)ミル貝
水管をゆで、煎り酒に浸し、下味をつける。
御菓子
(28)薄皮まんじゅう
この頃、甘い小豆餡の入ったまんじゅうが作られるようになったといわれる。
(29)山の芋
(30)美濃柿
(15日おちつき膳参照)
(31)琵琶
(32)麩揚げ
※館内での展示は、五月十五日の「おちつき膳」「晩御膳」のみになります。

十五日おちつき膳

十五日晩御膳

十六日御あさめし膳

十六日之夕膳

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十六日之夕膳
十六日之夕膳
十六日之夕膳

十六日之夕膳

本膳
(1)しほひき
(16日御あさめし膳参照)
(2)かりの豆
ガンの肉と青豆を煮る料理もあり、不明。早生ダイズをゆでて用いた。
(3)焼き物
魚肉・鳥肉をあぶり焼きしたもの。
(4)あへまぜ
するめ、干しあわび等の魚介類を削り、湯にかけて戻し、もみ洗いし、煎り酒と酢で和える。儀式料理のメニューである。
(5)御飯(湯漬け)
御飯に湯をかけて食べ、菜(おかず)は香の物より食べる。
(6)香の物
(15日おちつき膳参照)
(7)ふくめたい
ふくめ=現在の田麩の前身ともいえる。中世成立といわれる。
(8)蒲鉾
魚のすり身を串につけて焼いた物。現在のちくわの形をしている。
二膳
(9)からすみ
ボラやサワラの卵巣を塩漬けにして乾燥させたもの。土佐の特産物であった。
(10)たこ
(15日おちつき膳参照)
(11)さざえ三つ
ゆでて、3ヶ皿に盛る。
(12)あつめ汁
イリコ、串あわび、麩、シイタケ、大マメ、アマノリなどを入れた具の多い汁。
(13)小串
魚や鳥の肉をさして焼く。
(14)あえくらげ
クラゲを大きめに切ってそのまま盛る。上に華鰹を置き、酢をかける。
三膳
(15)山椒鱧
ハモは骨切りをし、6cmの長さに切り、ゆでる。上にサンショウ味噌をぬる。
(16)たけのこ・白鳥
ハクチョウはカモ科の水鳥で、肉は塩漬けにして保存したものを使う。旬のタケノコと盛り合わせる。
(17)えびの舟盛
「手のもの」といわれる高級料理フナのなますを高く盛り、その上に小エビを盛る。
(18)のしもみ
アワビの肉を薄くはぎ乾燥させ、これを小さく切り塩でもみ柔らかくする。
鯉汁
コイの味噌汁。
与膳
(19)数の子
ニシンの卵巣。
(20)百菊焼き
鳥の砂肝をたれ味噌に漬け、焼いたもの。
(21)青鷺汁
夏から初秋にかけて味が良く、主にすまし汁、味噌汁に用いられた。
(22)瓜もみ
瓜を薄切りにして塩もみし、二杯酢に煎り酒を加えて和える。
五膳
(23)鴫のはもり
シギの焼き鳥。両羽、両足を飛ぶ形にして置く。
(24)鯨汁・うど
クジラはコイよりも上の魚とし、珍重された。クジラの尾の部分を使用した味噌汁。肉は塩漬け保存されていた。
(25)ばい貝
海産の巻き貝。ツブとも言う。
御菓子
(26)羊羹
室町後期には菓子の甘味料として砂糖が使われはじめている。アズキ・くず粉・もち米・砂糖を材料にして練り合わせたよせ物。
(27)うち栗
かち栗ともいう。栗の皮をとり、天日で乾燥させ保存した栗。
(28)栗やくるみ
栗やクルミなどの「木の実」も菓子として食べられていた。
(29)揚げ物
奈良・平安時代に中国より伝えられた唐菓子のうち「ぶと」を盛る。
(30)花に昆布
(15日おちつき膳参照)
(31)おこし米
餅米をいり、水飴でこね、かためたもの。
(32)のし
古くから祝事の贈物にはアワビの干物を添えて飾り物とし、これをのしあわびといった。
御てんちん(御点心)
朝夕の食事の間に、うどん、餅、菓子類などを食べることをいい「中食・胸やすめ」ともいう。

(33)むしむぎ
麺類をゆで、蒸して温かくしたもの。
(34)しょうが
点心に添える粉。
(35)あんにん
点心に添える粉。
(36)さんしょう
点心に添える粉。
(37)かたのり
淡水産のノリで、あぶり肴に又さしみのつまに用いられる。香りのよさが珍重された。
(38)こたうふ
煮て用いる。
(39)しいたけ
煮て用いる。
おそんさかな(お添え肴)
羊羹などの酒の肴にならないものの時には別に肴を添えて出す。羊羹を食べ、添え肴を食べて酒を飲んだ。

(40)橘焼き
クチナシで黄色に染めた魚のすり身をたれ味噌の中で煮たもの。
角盛り
(15日晩御膳参照)
たいのあつ物
(15日晩御膳参照)
つぼもり
折十かう・盃の台外いろいろ
※館内での展示は、五月十五日の「おちつき膳」「晩御膳」のみになります。

十五日おちつき膳

十五日晩御膳

十六日御あさめし膳

十六日之夕膳

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