最高 の マッチ

女たちよ! (新潮文庫)  .


「あのね、お客さん」
「なんだい」
「世界一のマッチって知ってますか」
「いや知らないねえ、そんなのがあるの?」
「BENラインっていいましてね、
 イギリスから、ヨーロッパ、それからアジアのほうへきてる航路がありましてね、
 この航路の船で使ってるマッチが世界一のマッチだっていいますね」
「だけどさ、世界一たって、いったいなにが世界一なの?
 どこがどう違うのかね?」
この質問に対して、彼は実に明快に答えたね。
おそらく、日本広しといえども、理想的なマッチの条件を即座に述べられる人は、
そう何人もいるものじゃなかろう。
諸君はどうかな。


彼は答えた。


「つまり、一つはにおいがしないことですね。それから、もう一つは頭が落ちないこと」

その後私は、実に偶然の機会からBENラインのマッチ、
十箱入りの包みを二つ手に入れた。
一見なんの変哲もない野暮なマッチだが、すってみると、確かに彼のいうとおりであった。
軸が黒ぐろと燃え残って決して頭が落ちないし、においもしない。
もったいないから、まだ2本すったままで全部とってある。


一箱一万円でも売るつもりはない。