幼女戦記
⚔️ ああ
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いや、あるいは先人達から手招きされたのかもしれない。 その日、私は書き上げた本を手に、献花台へ向かっていた。 『興味深い著作ですな。きっと、皆が手に取るような本です。勝手ながら、御成功をお祈りさせていただきたい。』 私に礼を述べたその老紳士こそ、連合王国で戦時中に情報部を率いたあのハーバーグラム卿だった。 あの日の事は、今でも思い出せる。 事務所の一室。 それは、心に踏み込まねばならない取材をしている時幾度も経験していた。 「・・・卿は、亡くなるまで自身の失敗を後悔されておいででした。」 だから、促すことなく、ただ相対して待つ。 「卿の失敗?失礼ですが、その、私の前職を御存じでしょうか?」 一線から退いたとはいえ、戦争の真実を追求するプロジェクトに携わった身だった。 探究者として、またジャーナリズムに携わる者としてのジレンマだ。 もしもだ。 もしも、相手が私だけに話すつもりならば帰ってもらわねばならない。 そう思いつめていた私に対して、老弁護士は微笑してくれた。 「ああ、御懸念には及びません。貴方が世間に知らしめるべきだと思えば公開していただいて構わないのです。」 わかりきったことを、諭すような声。 そして、その上で私を訪ねてくれた。 だが、ともかくその当時の私は相手の物分かりの良さにただ驚くばかりだった。 「ただ、一つだけ条件が。」 「承りましょう。」 「あと15年は公開を見送っていただきたいのです。」 なにしろ、求められた要求はたった一つのシンプルなもの。 「・・・関係者が亡くなるまでという事ですか?わかりました。それで真実を教えていただけるのならば。」 真実を秘匿するのでなければ、それは許容できる条件。 「結構。では、お話しましょう。」 そうして、少しばかり深い呼吸をした老弁護士は口を開く。 「卿は、一度だけおもらしになりました。『“ウルトラ情報”は正しかった。だが、“汚染”されてもいた』と。」 ウルトラ情報? 少なくとも、その当時の私には何のことかいささか理解しかねる用語ばかりだった。 だが、ウルトラ情報とは一体何だ? 「・・・それだけですか?他には何か?」 これが、重大な秘密だとハーバーグラム氏が死の間際に残した言葉? 加えて、あまりにも事態を理解できていなかったことも追記しておこう。 「遺言では、貴方に手記を公開することを望んでおられます。」 「ありがとうございます。すぐにでも、お邪魔させていただければ、幸いです。」 戦時中には。 “Gotterdammerung” アンドリュー著 前文より 策というよりも詐欺に近い。 それを聞かされた時のゼートゥーア中将が受けた印象だ。 どちらかと言えば、人間として狂っているかどうかの違いにすら思える悪辣さ。 形容しがたい思いに駆られながら、彼が精神を辛うじて立て直すまでの間に化け物は地図に手際よく書き込み始めていた。 「第一段階で戦線の再編をイルドアに対する侵攻計画に偽装します。」 南方大陸からの撤兵。 しかし、少なからず価値があったのだ。 だが、デグレチャフ案はイルドアを叩くという点からスタートしているため従来の制約からは自由だ。 「第二段階で、イルドア国境付近から部隊を引くように偽装します。」 地図で印の付けられた国境沿いの部隊。 信頼しきれない同盟国に対する帝国の不信感が表明されている形だ。 だから、それに応じるように偽装しよう。 「これにより、我が国の意図は次のように偽装されます。」 淡々と示されるドクトリンは情報戦に重きを置くもの。 「まず、南方大陸より撤兵する。次に、南方大陸派遣軍でイルドアを叩く。」 その方針は、敵に疑心暗鬼を呼び起こすモノとなるだろう。 「それらの意図を隠蔽するためにイルドア付近の部隊を撤兵し、東部へ増派。」 そのための、第二段階案だ。 だから、東部に増派するという理由は誰もが納得してしまえる。 加えて。 東部に部隊を引き抜いて増派すれば、イルドア王国の意図が不安になってしまう。 それは、ありえないとは誰にも言いきれない策だ。 「以上の擬態を連合王国並びにイルドアに信じ込ませます。」 そして、いっそ楽し気にターニャは地図に青色で敵に信じ込ませる配置を書き込む。 がらあきのイルドア・帝国国境と離脱する南方大陸派遣部隊。 完膚なきまでに帝国の産業基盤は破壊され、東部に残存する部隊の補給も断たれる。 終戦に向けてチェックメイトするだろう。 しかし、彼らは遠方から飛来する航空部隊や強行偵察の敵魔導師邀撃が主任務。 手をこまねいて状況を遠望するには、少々魅力的に過ぎる。 「ですが、実際には欺瞞行動を行う部隊を除いて、どの部隊も動かしません。」 最も、そんな危険性は帝国側とて百も承知。 「連合王国、自由共和国は撤退する途上にある輸送船団の撃滅並びに南方大陸の制圧作戦を意図するものかと考えられます。」 大規模な船団の移動が見られれば、相手方は完全にこちらの欺瞞情報を信じるに違いない。 増援か、撤退する部隊収容のための船団。 そのどちらかしか考えられないだろう。 「加えて、イルドア王国は脆弱な我が国の側面を叩くことを意図するでしょう。」 そして、イルドア王国は漁夫の利を求めて横合いから殴るくらいの気持ちで参戦してくるに違いない。 それは、少数の懐疑主義者や冷静な人間では歯止めが効かない衝動だ。 「ですが、実際には我々の防衛線は強固です。ライン同様、イルドア軍主力撃滅後、イルドア王国を制圧します。」 後は、ライン戦線で誘引撃滅を図ったのと同じ展開だ。 「これらにより、我が国は先制攻撃をイルドアに開かせ、なおかつ戦略上の優位を確保し得ると判断しました。」 最低でも、外交上先に銃弾を放つのはイルドアからにできるだろう。 何より、地上部隊を撃滅されればイルドア王国軍は致命的な損害を被った責任を誰かが払わねばならなくなる。 ふふふ、と口から笑い声が漏れてしまうほど楽しみだった。 不合理なことで、愚か者どもが罵り遭うのを眺めるのは一つのストレス解消法としてはなかなか有効なのだ。 「イルドア・連合王国は感情的なしこりを抱えるでしょう。それらは、敵の分断を可能とします。」 敵がいないと連合王国から囁かれて、開戦を決断。 侵略者のレッテルをイルドア側に貼り付けられれば、レジスタンス対策も随分と楽になる。 「また副次的な効果も期待できます。南方大陸で敵が上陸作戦を計画した場合はこれを誘引・撃滅することも可能です。」 加えて、南方大陸領域の奪還を試みる連合王国・自由共和国が逸って上陸戦をする可能性もある。 想像するだけで、愉快な事態だろう。 これが、真面目な作戦会議でなければ笑いをかみ殺すこともできなかったに違いない。 「以上が、"ライン騎行"作戦の骨子です。」 ライン戦線での大勝を再び。 悪くない計画案だ。 だが、当然ながらこれにはある前提が必要だ。 「・・・デグレチャフ中佐、素晴らしい計画案に見えるが一つ問題がある。」 この計画は、悪くない。 だが、その実現に際してクリアすべきたった一つのハードルはかなり高い。 「はい、情報欺瞞の段階における成功可能性でありますね?」 もちろん、ターニャとてそれが難しいことは理解している。 だが、幸か不幸か本来であれば知るはずもない“ウルトラ情報”の存在をターニャは知っているのだ。 「それについては、個人的な経験から、私は一つの結論を有しております。」 解読された根拠・方法の物証はない。 こじつけだろうとも、ともかく事実を事実と認めさせればよい。 「では。閣下、我が軍の暗号は解読されているものと思われます。」 我が軍の暗号強度について、情報関係者は過信している。 長い髪を指で玩びながら、ターニャは状況を皮肉なものだと思わざるを得なかった。 実際に暗号を解読されていると思しき兆候は、この世界でもあったのだ。 そして、この世界においても同様らしいと確信した時は悪意を感じたものだ。 まったく嘆かわしいことである。 「・・・奇妙なことだな、中佐。その危険性は常々関連部署が議論し漏洩の可能性、解読される危険性を検討したはずだが。」 「閣下、私は南方で小規模ながら何度か偽電を奇襲作戦で活用しました。その経験談から申し上げれば黒です。」 技術的要素はこの際重要ではない。 幸か不幸か、これまでその上申が拒絶されているのでこんな罠も使えるのだが。 「小規模な検証実験を行っていただいても結構。間違いなく、解読されています。」 とあるカフェの一室。 「さらなる大規模借款についてですが、フィラデルはようやく同意しました。」 ジョンおじさんは、大切な奥さんに別れを惜しむ間もなくお友達のフィラデルにお呼ばれしていた。 前回は渋られていた『新型トラクター』の供給もめでたく合意を取り付けることができている。 ジョンおじさんとしても肩の荷が下りるような気分だ。 前回確保できた“4U型汎用精密懐中時計”と“G-58モデル試作精密懐中時計”は本国で大人気だった。 早い話、彼らが望んでいたデータがそろう環境にあったのだ。 皆がニコニコできるよい具合に商談がまとまるという大変よろしい状況だった。 「ありがたい。これで、我々としてもいくばくか気が楽になります。」 ジョンおじさんの仕事は大変順調だった。 散々大言壮語した揚句に、破産してしまったお友達。 「それで・・・Mr.ジョンソンさんのご友人に債権をお返し願えるかどうかについてですが。」 当然、ジョンおじさんの合州国のお友達もそのことを良く理解している。 実際、昔ジョンおじさんのお友達らが健在な時ならば返せた額。 しかも、それを建て替えられるほどジョンおじさんらの内情は裕福でもない。 「ああ、難しい問題ですな。私としては、円満な解決を願ってやみませんが。」 とはいえ、ジョンおじさんはジョンブルだ。 貧乏人と金貸しならば、こんな関係は望めないだろう。 フィラデルの友人らが新たな借款に応じたのも、根本的にはそれが大きな理由となっている。 そう、これまでは。 「もちろん、私達としてもMr.ジョンソンにお願いするのは筋違いだと承知してはおります。」 「ですが、御理解いただきたいのです。借款に対して我が国の世論は非常に微妙です。」 「ふむ、なるほど。」 問題は、フィラデルの友人達を選ぶ人々の意識だ。 「フィラデルは、支援する意志があります。ですが、国内の事情が許す限りという条件付きの援助です。」 つまり、破産を望まないが支援にも限度が出てくるという事だ。 それは、ジョンおじさんたちをして現在が順調ながらも長期的には難しい問題を予期させるのだ。 一体、いつまで支援が受けられるかは不透明な要素が多くなりつつあるのだ。 「我々としましては、少しばかり明るい材料が見たいと思っております。」 「なるほど、明るい材料。しかし、なかなか微妙な要求ですな。」 しかし、言わんとすることはあまりにも明瞭だ。 可能ならば、できるだけ早く。 「御理解いただきたいのです。フィラデルは少々焦っています。」 「・・・御忠告、感謝します。それでは。」 あとがき ワグナーはかっこいい中二病。 今回は、こんな感じでお送りしました。 アンドリュー氏の新著にご期待ください。 あんまりだ。 追伸⚔️ 第六六話 カルロ・ゼン 2012.03.17 23:56
"Gotterdammerung"と名付けられた機密。
私が、その存在を知ったのは報道関係の仕事から退いて作家としての道を歩んでいた時だった。
当時の私は、大戦の人間模様を中心にした小説を書き上げたばかり。
鎮魂と先人たちへの不戦の願いを兼ねて戦没者公園へ足を向けたのが、私を再びこの世界に引き込む契機だった。
ある老紳士が、私の手にしていた本に気が付き、よろしければといって手渡したのが事の始まりだ。
それを私が知らされたのは、それからしばらくして卿が亡くなった後に卿の遺言で訪ねてきた弁護士からだ。
しばらく、訪れてきた老境にさしかかろうかという弁護士は沈黙を守っていた。
口を開こうにも、言葉にならない思い。
急かすことなく、ただ沈黙して待つ。
そういう気持ちで、待ちつつ来客用の茶葉で入れた紅茶を飲んでいた私に彼が切りだした一言だ。
そして、プロジェクトは未だに継続している。
関係者のエピソード、特に失敗談を知ってしまえば当然公開されてしまう。
だが、少なくとも相手に対して正直であるべき必要性を疑うことはできなかった。
当然だろうが、彼は私の職を良く調べていたらしい。
このことを知ったのは、随分と後のことだ。
もちろん、軽々しく公開すべきでないという情報もある。
それを思えば、15年の期限という要求自体は理解できた。
そう考えて、差し出された契約書に私はペンを走らせた。
今では、あのときの緊張が懐かしい。
汚染?
なにか、情報が汚染されていた?
手掛かりを求めて、尋ねる私は今思えばぶしつけだった。
あの大戦中には。
事実は小説よりも奇なりということが、本当にありえた。
本著は、そのハーバーグラム氏の手記から導き出された新たな事実を初めて公開するものだ。
まともな軍略というよりは、クモの巣の様に張り巡らされた罠で相手を追い込む方策。
単なる軍人に考えつく策とは、視点が違い過ぎる。
これが、効率至上主義に駆られた戦争狂の末路なのだろうか?
これ自体は、実のところ何度か検討されてはいた。
少なからず議論された背景は戦略的価値だ。
南方大陸には、戦略的価値が見出しにくい問題がある。
砂漠に敵を引きずり込むという事は消耗させるという点で有望。
なおかつ、イルドアに対する外交上のカードにもなった。
そのため従来は、イルドアとの関係や敵の戦力分散といった観点から棄却されている。
予備役中心の部隊が大半ながら、装備・訓練は悪くない水準にはある。
想定では、基本的にイルドアの陸軍とであれば相応に渡り合えると判断されている。
常々、イルドアは水面下で憂慮と非武装地帯の形成を要求してきていた。
まず、南方大陸からの撤兵を偽装。
しかる後に、南方大陸派遣部隊は本国に帰還するように見せかけてイルドアを攻撃すると敵に信じ込ませる。
何もわざわざ南方大陸派遣部隊を使う必要性などないからだ。
だから、判断材料を汚染し状況を誤読させる必要がある。
東部戦線で帝国・連邦が共に信じがたいほど消耗戦を繰り広げているのは周知の事実。
この事実は、連合王国情報部も確認済みだろう。
どの道、信頼できない同盟国というリスクを厭ったところで不思議ではない。
戦線再編で余剰となった南方大陸派遣部隊を、イルドア攻撃に回す。
書き記されている部隊配置を見る限りでは、イルドア・連合王国の選択肢は単純になる。
しかも、帝国は行動が読まれているとは全く考えていない。
対潜警戒程度のわずかな護衛で、イルドア半島に接近する上陸部隊は良い的だろう。
上陸部隊を屠った後に、イルドア軍が国境を越えて進撃すれば帝国は止めを刺される。
なにしろ、帝国は予備戦力の大半を東部に投入済み。
防空部隊として帝都にいくばくかの魔導師・航空隊が駐屯してはいる。
言い換えれば、本格的な地上軍の阻止任務は本来想定されていない。
二線級の地上部隊であっても、この状況では帝都を攻略可能だろう。
だからこそ、わざわざ相手が夢見る幻想を演出するのだ。
このような状況下での、大規模船団移動が意味するところは明らかだ。
だから、敵は当然洋上にある囮船団を追いかけまわすことになる。
イルドア王国を参戦させるために、連合王国は絶対に彼らの傍受したウルトラ情報を活用するからだ。
戦後の列強間の取引材料として、絶対にイルドアは帝国を倒す決定的な役割を欲してしまう。
多数を熱狂させるのは、いつの時代も極めて簡単なきっかけで惹き起こせる。
1人、2人を踊らせるのは難しいが踊らせられれば後は簡単なのだ。
重防御の防衛戦に引き込み、火力と陣地で撃滅。
塹壕とトーチカで、イルドア王国地上軍を肥料にしてやるのだ。
これは、結果として裏切り者という汚名はイルドアに着せられる。
内輪もめだ。
外から眺めている分には、きっと楽しいだろうとターニャは想像するだけで愉快な気分になれる。
イルドア半島に防衛線を構築し、戦争ごっこをしながら相手の不和を眺めて終戦まですごす。
ピッツァ付きという食環境を思えば未来に希望が持てる展望だ。
決断してみれば、実態はボロボロにされた挙句に逆侵攻をうけて占領される。
イルドア王室の権威が保てるか、実に興味深いモノだ。
これらは、敵を分断して統治する上で最高の材料だ。
これを惹き起こせれば、水際撃滅でも誘引包囲せん滅でもお好みで料理できる最高の敵失だ。
思わず、笑いが止まらなくなりそうだ。
そういう意図からのラインの地名を込められる作戦は、少なくない。
ライン騎行という作戦名は、ほとんど何を意味するか聞いたとしても理解できないだろう。
それが、ターニャの自己評価である。
一見して、実現可能性が高そうに思える。
それは、話を聞けば誰でも理解できた。
少なくとも、居合わせた参謀らの感覚ではそのハードルは乗り越えきれそうにないほどに。
連合王国を欺く為に意図的に欺瞞情報を流すなど、到底不可能に近いだろう。
よしんば、流せたとしても相手にそれを信じ込ませるのは至難の業。
その目処がつかねば、到底連合王国を踊らせることはできない。
そんなものがあれば、そもそもこんな密室で話すこともないだろう。
だが、確実なのは知っているのだ。
確かに、エーゲルマン式暗号は突破されないと過信されてもおかしくない程に強固だ。
だが、解読できない暗号というのは幻想だろう。
解読されうると考えて観察すれば、その確信は揺るぐことはない。
第一次なのか、第二次なのか微妙に判断しにくい戦局も、結局暗号が破られていた。
この世界に存在Xが神とやらとして君臨するとしても、せいぜい邪神としてに違いない。
拝火教ではあるまいし、これで善なる神が存在すると仮定する必要もないだろう。
ハイエクではないが、人間に理解し得ることなど限界があるのだ。
限界がある知性で未来を予知し、予想するのはあまりにも危険だと改めて思う。
だから、堅実に暗号を変更するように要求し続けているのだ。
東海岸特有の落ち着いた雰囲気を楽しむ間もなく、ジョンおじさんは仕事の打ち合わせに追われていた。
今回は、おじさんの御船が沈んでしまったので新たな『ヨット』を借りるための交渉だ。
嬉しいことに、共和国の様な貸し倒れを恐れたフィラデルは貸与することに同意してくれるらしい。
特に、“4U型汎用精密懐中時計”の追加要求が山ほど届けられている。
あと、スカンク組合を喜ばせたこととして“G-58モデル試作精密懐中時計”も本番できっちり活躍できていた。
その謝礼として前回は供与を断られた“6F型耐水精密懐中時計”も少数ながら確保。
いや、順調で無い問題もあることはあるのだが、ともかく全体としては順調だった。
問題は、ジョンおじさん達のお友達にある。
それでも、もちろん大切なお友達だ。
ジョンおじさんとしては、嫌々ながらも面倒をみて上げているつもりでいた。
というよりは、ジョンおじさんが居るからこそ強硬な取り立てに出ないだけだ。
本来ならば、とっくの昔に不良債権の処理を彼らは始めていたことだろう。
しかしながら、破産して主要な不動産を制圧された彼らには厳しい額だ。
不良債権として処理されては、ジョンおじさんらにとって困ったことになる。
困ったことに、ジョンおじさんたちも借りる立場なのだ。
はっきり言ってしまえば、ふてぶてしく振舞う事もできた。
なにしろ、債権者は債務者に対して取り立てるために債務者を守らねばならない。
だが、一国規模の貸し借りとなれば、借り手の破産を貸し手も傍観できなくなるものだ。
勝手に破産してしまえとは、どんなに嫌でも付きつけられるものではない。
だから、ジョンおじさんとしては他人事として対応する事でこれまでは問題ではなかった。
彼らにしてみれば、まるで不良債権にずぶずぶとお金を投じているように見えるのだろう。
もしも、外の世界に気を払わないとすれば確かにそのお金を他の事に投じても良いように見えるに違いない。
なにしろ、フィラデルにいるジョンおじさんの友人には『人気』を気にすべき理由がたくさんある。
誰だって、嫌われることを他人のためにやるのは躊躇するだろう。
今は、今は支援を受け取ることがまだ可能だとしても。
喜ばしいと手放しで支援を喜び続けることはできない。
要するに返せる見込みを示さねばならない。
それも、その意欲と能力があることを眼に見える形で。
⇔レンドリース?でも、返ってくるの的な合州国の疑念。
ウルトラ情報?
信じ込んでいるのを逆用だbyデグレチャフ。
後、グランツの人気とターニャの不人気ぶりに涙。
誤字修正
ZAPしました。