幼女戦記 Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens
⚔️
ああ
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勝者による、勝者の中の敗残者のための裁判。 私は、この法廷に携わった経験から自分の子供に伝えたい。 もしも、これが敗北したことによって生じるのであるならば。 ゼートゥーア上級大将は、人類に、人道に対する罪で裁かれた。 …そう、全てをだ。 彼は、協商連合軍との間に意図的に自ら紛争状態を参謀本部の一高級将校の時点で立案・実行した。 彼は、帝国が世界征服を実現するために人知の及ぶ限りにおいて全てを為した。 これが、一介の軍人にかけられた嫌疑というのだ。 この罪状を宣告された軍人を、ゼートゥーア上級大将という。 ゼートゥーア上級大将は確かに、有能だった。 特に、間抜けなイルドア王国や、協商連合に、共和国を返り討ちにした手際は鮮やかの一言に尽きる。 故に、彼に鼻を明かされた各国は彼を咎人にするほかになかった。 だからこそ、彼は責任を押し付けられた。 私の見解は、あまりにも帝国軍よりだと批判されるかもしれない。 私は、息子を森で失った。 部下もまた同様だ。 だが、戦争を知っているからこそ私は断言する。 ならば、彼が強く初期の論集で指摘しているように二正面作戦などそもそも計画しなかったに違ない。 帝国は、協商連合との地域紛争を自国内向けで協商連合が行っているパフォーマンスと分析していた。 同時に、帝国側は予想外の会戦で物資の備蓄が不足していた事も今日では判明している。 共和国の一撃を防御しきれたのは、ほとんど奇跡だ。 帝都の防衛部隊まで割き、崩壊寸前の戦線を機動防御で食い止めたことは歴史的に見ても稀な成功なのだ。 ここまで疲労困憊した帝国が、辛うじて共和国を倒そうとした時に連邦に自ら殴りかかることがあり得るだろうか? そして、連邦軍参戦後、一時期彼は戦争指導から外されている。 にもかかわらず、彼は全てに責任を持ち、操っていたと連邦は主張した。 彼は、私の知る限り捕虜の虐殺や、戦時国際法への違反は一件たりとも命じていない。 だが、軍人にとって他に選択肢がありうる状況だったとは思えない。 そして、彼は部下の咎をすべて引き受けた。 だが、実のところ彼を擁護しようという公正の精神が我々になかったのではない。 脱走兵よりも、政治的に都合が悪ければ最善を尽くした自軍の将軍すらも『信頼できない』とする裁判。 かくいう私自身、帝国軍が捕虜を虐殺している現場を目撃した証人として召喚された時苦い経験をした。 その上で、私は『捕虜』が『虐殺された』と証言を訂正するように要求されている。 軍服を着ておらず、かつ民間人に交じったものを『パルチザン』と呼ぶのだ。 そして、私が目撃したのもそういった連中の慣れの果て。 結果、私は『捕虜虐殺』に関し、見識が無いために『不適当な善意の証人』と呼ばれる羽目になったのだ。 私の信頼は、その程度らしい。 馬鹿馬鹿しくなった私は、その日、スコッチを一本被告人に贈呈した。 無論、帝国は、完全に無垢な無実とは言い難いのかもしれない。 後世は、私を、私達を笑うだろう。 被告には、争う意思が無かった。 大陸軍事裁判は、人類史上に名を残すだろう。 交渉とは、取引だ。 言い換えれば、欲するところが明瞭でなければ取引というのは実に難しい。 「何、と言われると答えに困りますな。」 問いかけに対する答え。 単純に言えば、冷戦下においてコミーを完膚なきまでに叩きのめしてもらいたい。 だが、既に先約でバルバロッサと当事国政府は暗黙裡に生贄は決めてある。 そうである以上は、別段頼まずとも合州国は合州国で連邦と戦ってくれるだろう。 加えて、それは取引相手に対して無礼な上に二度手間なのである。 では、財産の保証を要求するべきだろうか? だが、正直に言って各所に分散してある上に老後の心配をする歳でもない。 では、何を要求すればいいのだろうか? いっそ、糞ったれの存在Xを撃滅しろとでも要求するか? では、何を言うべきだろうか? 少しばかり逡巡した末に、ターニャは質問に質問で返す。 「Mr.ジョン・ドゥ。逆にお尋ねしたいのですが、貴方は何が可能なのでしょうか。」 はっきり言ってしまえば、こちらから要求するべきものは不明瞭。 「失礼、説明不足でした。」 だが、幸いにも無礼というよりは単なるコンファームとして相手にとられたのは幸いだった。 だからこそ、逆に言えばターニャは油断ならない交渉相手だと気を引き締めなければならないのだが。 「私は、カンパニーの代表ではありますが、同時にサム伯父さんの全権を代表するとお考えいただき構いません。」 「…権限に不足はない、と仰るのですか?」 「御不審になるかと思いますが、参謀本部、国家安全保障委員会、司法省より承認されております。」 …それを最初に明示しない時点で、随分と信が置けない。 双方がにこやかに笑いつつ、手札をそれとなく示唆し合う段階。 「ですので、貴女の意向は極力応じられる、と申し上げておきましょう。」 「大変有り難いお話ですな。具体的には、どの程度まで?」 権限があると言うのは、大変結構なこと。 つまるところ、全権代表だろうとも本国に慮らねばならない事象がいくらでもある。 其れゆえに、にこやかに談笑し相手の内実を探る。 「…必要であるならば、1億ドルまでの機密費が用意されております。」 だが、その帰ってきた答えはターニャを凍りつかせるには十分過ぎる物。 …合州国ドルで、1億? それは、軍艦が買えるような値段だ。 そもそも、1億ドルも一体こちらの要求で何に使うというのか問いかけたい。 思わず、聞いた時に聞き返さなかった自分の自制心をターニャは評価したい思いだった。 辛うじて表情はポーカーフェイスを保っているものの、ターニャとしては相手方の出方を理解しかねていた。 だが、そもそも最初に提示してきた額でこれという事が理解できない。 そんな額を一体何に使うと言うのか。 ん? 個人に提示する額ではなく、かつ戦争ができるだけの金額? つまるところ、バルバロッサの作戦部隊に、提示されたとみるべき額か。 「1億ドル?なるほど、それだけあれば十分に非正規戦を行えるでしょうな。」 だが、逆に言おう。 敗軍の将校というのが、戦いの手段を求めるのは常識的だろう。 そうなれば、わざわざ国家安全保障員会が出張ってくるのも理解できる。 「それこそ、ライヒのために戦えるというシナリオ。なるほど、Mr.ジョン・ドゥは中々面白い提案をなされますな。」 だが、それこそ冗談ではない。 必要があれば、税金を支払って政府機構が対連邦政策を遂行するのを協力に支援してもよい。 しかし、だ。 「ですが、私としてはライヒのためにできる自らの最善を為すほかにない。故に、非正規戦は望むべきではないのでしょう。」 「…お話を聞いて、安堵する思いです。」 自分の答え。 外見で判断するのは危険だが、少なくとも相手にとって完全な拒絶で無いという事実が許容の範囲だったに違いない。 まあ、向こうもこちらを対連邦用に使いたいのだろうからライヒのためという口実で、連邦に害為すことは歓迎だろう。 「つまるところ、私はライヒのために最善を尽くしたい。『ライヒに黄金の時代を』それが、私の望みなのですから。」 愛国者として仮面は、交渉において酷く便利だ。 自分とて、このような必要性でもない限り善人なのだから愛国者然とするつもりもないのだが。 「崇高な御意志ですな。…では、やはり戦後はライヒのために戦われるのは変わりないのですな?」 「もちろんです。ただ、どのようにして戦うのか。それが課題なのですよ。」 経済上の便益で以て、帝国を再興させるのはビジネスとしてはありだ。 だが、問題は方策だ。 自分は、人材開発と捜索こそ経験豊富である。 やはり、正規に大学教育を受けてきちんと学ぶほかにない。 「なるほど、御尤もですな。」 「ご理解いただきあり難い限りです。おそらく、私の部下にはまた違った意見の者もいるでしょうが。」 「いえ、そこまで考えておられるのです。納得されるかと。」 とはいえ、円滑な関係を維持できるのは大変素晴らしい。 ちょっとまずいので補足説明しておく必要を感じる。 「感謝しましょう。それで、貴国への望みになりますが。」 「ああ、解っております。ご安心ください。合州国で学べるように手配しておきます。」 「・・・よろしいのですか?私は、貴国の入国許可すら有しておりませんが。それに、部下の事もある。」 部下の面倒をみたい訳ではないが、少なくとも上官として規定された義務は果たす必要がある。 「もちろんです。カバーの経歴を用意することぐらいはお安いご用ですよ。もちろん、経歴相応の行動をお願いすることにはなりますが。」 「経歴相応とは?」 「大変申し訳ないのですが、軍歴は抹消されてしまいます。なにより一介の市民として行動していただく必要があります。」 …なるほど。 一介の市民として行動しろということは、沈黙なりなんなりを要求されているという事だろう。 「ああ、その事ならば問題ありません。しかし…」 「部下の方々には、望まれるならば市民権を。望まれないのならば、個別に対応いたしましょう。」 「解りました。お世話になりましょう。」 そこまで先方が好意的なのは、少々怖い。 「いえ、こちらこそ。では、現物の引き渡しと同時でよろしいでしょうか。」 「異議はありません。」 こうして、交渉がまとまったことにターニャは満足すら覚える。 なにしろ主観的には、結果は大変良好なものであるとしか言いようがない。 故に、ターニャは完全に誤解を解くことに失敗した。 だからこそ、ジョン・ドゥ課長は非正規戦という言葉を聞いた時に表情を盛大に引き攣らせ掛けた。 なにしろ、資料が示す限りデグレチャフという軍人は生粋の戦争狂である。 ネームド級の実力に、卓越し過ぎた戦略眼まで有するとなれば野に放つには危険すぎる。 だから、結果的に。 ジョン・ドゥ課長は完全に読み違えた要求に対して誠実な対応を示す。 『ライヒ』のために『戦う』術を『学びたい』という希望。 なるほど、確かに危険な要望ではある。 戦場に解き放つくらいならば、4年程度、士官学校で管理するほうがよほど安全ではないか。 問題はない。 そう確信した彼は、手際良く作業を行う。 こうして、ターニャ・デグレチャフという個人の望みとは裏腹に、真っ白な軍歴には『士官学校』の文字が輝く。 今日のまとめ:『デグさんが、合州国に移民するようです。』 追記 やれば、できる子だと自画自賛。 ZAP⚔️
第九七話 カルロ・ゼン 2012.09.02 12:59
大陸軍事裁判に関わったことは、私にとって人生の汚点だった。
明確な責任逃れと、盛大な自己犠牲の精神の衝突。
断じて、断じて軍人になどなるな、と。
それは、政治と民意によって生贄に捧げられるのだ、と。
これほどの不正義の犠牲になる理由がそれ以外にないのであるならば。
私は、息子に愛する陸軍へ入るべきではないと止めざるを得ない。
彼は、全ての行為において有罪とされ、弁明すらなく絞首刑にされた軍人だ。
笑うべき事に、彼は帝国軍の侵略計画の全てを立案したとされている。
彼は、共和国国民を煽動し、挙句虐殺して後方地域のパルチザンを排除すると言う方策を実行した。
彼は、ライン戦線において有毒な化学兵器を使用し、陸戦協定を侵犯した。
彼は、全ての戦線において、非戦闘員を巻き添えにした市街戦を繰り返した。
彼は、捕虜を全て処刑し、戦闘要員を削ぐことを強く要求し実行させた。
おおよそ、正気とは言い難い罪状のリストだろう。
有能すぎたのかもしれない。
なにしろ、彼の参謀本部での手腕は確かに際立っていたのだ。
何よりも、内戦戦略と消耗抑制戦略は実に見事そのものだった。
だから、彼の敵は酷く間抜けに見えることになってしまう。
なにしろ、そうでなければ自分達の戦争指導が追求されるのだ。
現に、一部の国では兵士を無駄に死なせたとして政府高官が酷く叩かれた。
なるほど、確かに私はゼートゥーア上級大将を擁護する。
しかし、私ほど帝国に対して憎悪の念を抱くに足る高級軍人は居るのだろうか?
それ以前に、私は合州国の若者たちを血まみれのビーチで死なせた。
戦争のさなか、私は指揮官としてあり余らんばかりの憎悪を帝国へ向けたと言える。
ゼートゥーア上級大将にかけられた嫌疑ほど荒唐無稽な嫌疑は存在しない、と。
それでも仮に、ゼートゥーア上級大将が全てを企画・立案したとしよう。
世界を征服するために、全てと戦うなどという妄想を本気で信じているのは軍事裁判において一部の検察と判事くらいだ。
なによりも、我々が押収した証拠の全てが帝国にとって今次大戦が誤算以外の何物でもないことを物語っていた。
国力差から、開戦すれば蹂躙しうるのはあまりにも自明だったからだ。
実際、帝国軍が戦端を開かないだろうという希望的観測で進軍した協商連合軍は敢え無く潰走している。
むしろ、兵站関係者に言わせるならばあれだけの短時間で即応し得たことが、練度を物語ると言う。
帝国は、列強の一角としてはあまりにも若く常識的な感覚に過ぎた。
だからこそ、まさか共和国が横腹を、という隙を見せたとも言える。
連邦軍検察官は、軍国主義で肥大妄想化したゼートゥーア上級大将の妄想によって、暴発したと主張した。
同時期に、ゼートゥーア上級大将が当時策定した国防計画は主として連合王国との攻防に主点がおかれていたというのにだ。
逆に言えば、それ以外でしうる全ての事をしたとも言えるかもしれないだろう。
私が、同じ事を命令できたかどうかはわからないが、少なくとも他に方策が無いことは理解できる。
法廷では何と、民家からの窃盗や強姦まで彼が命じた事にされている。
さらに言えば、脱走兵からの証言によって彼が略奪した資金を自ら着服したとまで。
おそらくは、彼は部下にかけられた冤罪すらも引き受ける覚悟だったに違いない。
汚名も、非難も全て一身で背負って彼は果てた。
ただ、公正の精神を軍事裁判が必要としていなかったのだ。
彼はほとんど無一文だったと証言しようとした我が軍のパルトン将軍は法廷で証言を拒否されている。
曰く、信頼できない軍人による証言、として。
すさまじいと言うほかにない。
オブラートに包み、根拠が無い乃至、専門外の領域であるために留意するに留めると言う表現が多々活用されているが。
フランソワ人検察官は、私が『パルチザン』が軍事裁判で銃殺刑に処されたところを見た、という証言をしたのを大層お気に召さなかったのだ。
『レジスタンス』は祖国解放のための第三列であり、つまり正規軍であるからして『捕虜虐殺』であるという見解を私は頂戴した。
そして、彼らは帝国軍の手続きに基づき軍事裁判を受けている。
なによりも性質の悪い事に、パルチザンの一部には帝国側捕虜を嬲り殺している者もいたのだ。
故に訂正を拒否すると、弁護側が『ブルドッレー将軍の証言は、被告人の無実を証明するものだ』と指摘。
私も、『捕虜虐殺については、小官が知る限りない。』と証言した。
そのうえで、脱走兵が証言したことが事実として認定されていた。
私の部下が、連邦軍判事と連邦軍検察官の顔写真を射撃訓練の的にしたという根も葉もないうわさが立ったのは次の日だ。
曰く、邪悪な帝国と勝るとも劣らない邪悪な連中を見つけたので邪悪さに慣れる訓練だ、と。
今だからこそ言えるが、実はパルトン将軍指揮下では実際にあった話らしい。
それを許すかどうかは、別の次元かもしれない。
だが、少なくとも彼が軍人として最善を尽くしたがために、法廷で罪をかぶせられて一身に引き受けたのは正義の敗北だった。
おそらくは、不正義の、傲慢の象徴として。
原告には、真実は意味が無かった
あの法廷には、正義が無かった。
勝者による一方的な裁判として。
取引とは、異なる二者がそれぞれの欲望に従い行うもの。
欲望の二重一致が成立することで、初めて其れは機能する。
実のところを言えば、何を望むかと言われてもターニャにはふさわしい答えの持ち合わせがなかった。
故に、ターニャは礼儀を逸脱しない範疇で視線をそらし思考を回転させながら珍しく悩んでいた。
ついでに言えば、生命の安全も完全に保障してもらいたい。
上司に救われる形であり、本当に惜しい人をと思わざるをえないほど理想的な上司であった。
ついでに言えば、放っておいても冷戦は必然的に起きる。
つまり、念押し程度に要求することはできるかもしれない。
しかしながら、相手が履行することに疑いが無い以上それは単なる無駄だ。
そもそも相手がこちらの要望を受け入れようとしているのだから、意味のない要求を出して無駄に恩を売られても意味が無い。
もちろん、将来のことを考えれば蓄えがあるに越したことはないのだろうが、知識があれば市場で挽回可能だろう。
しかし信仰の自由を掲げている上に、じゃっかん宗教に偏っている国相手に其れを言うか?
それこそ、逆に関係を壊しかねない愚行だ。
であるならば、相手が提示し得る中で最も自分にとって利益があるものを選ぶべきだった。
申し訳なさげなカンパニーのジョン・ドゥ課長は丁寧に頭まで軽くとはいえ下げてくれる。
アンクルサムのメッセンジャーとはいえ、随分と物腰が柔らかい。
ターニャにしてみれば、文明人の文明的な戦い方とはこうあるべきだと言う実に模範的な状況。
もちろん、戦いよりも協調や融和の方が望ましいのは言うまでもないことではあるのだが。
その事実は、ターニャとしても歓迎できる。
だが、用心深く確認しておかねばならないことなど交渉事ではいくらでもあるのだ。
誰だって、会社を代表して契約を結びに来た人間が、会社の資産を全て使えるとは考えない。
だから、権限委託元から、どこまで許されているのかを確かめなければ。
1億ドル?
間違っても、機密費というには生ぬるい額。
額が額である。
率直に言って、個人に提示する額ではない。
観察する限り、ジョン・ドゥ課長には後ろめたい嘘をついているもの特有の挙動は皆無。
無論、この手の情報部員がそもそも表情に出す訳が無いので判断材料としては弱いだろう。
武器弾薬でも買い込んで、ゲリラ戦でもやれとでもいうのか聞きたい。
どこでやらせるつもりか曖昧であることだ。
なるほど、自分は帝国軍人だ。
つまり、合州国が余計な誤解とお世話で戦後も一定程度連邦と殺し合いをできるようにしてくれる意図があると見るべきか。
自分が望めば、連中、こちらをキューバに上陸した反共キューバ兵の用に扱う用意があると言う事だ。
自分が望んでいるのは、市場原理に基づく平和で文明的な秩序ある生活だ。
市場を破壊しようとする最悪の要素である共産主義を市場保全のために排除するのはもちろん望んでやまない。
政策を応援する必要があれば、極力応援するつもりもある。
暗黙裡に。傭兵として戦うのは御免蒙りたいと言う回答。
対して、ジョン・ドゥ課長はしばらく眉をひそめていたもののほっとするように笑った。
とはいえ、あまり相手の意向を無視する形で話を進めるのも危険だ。
特に、相手が複数のバックを抱えている場合、意向にそぐわなかった場合に不満を買う相手が多い事に留意しなければならないのだから。
こちらが判断する基準をいとも容易く雲にまける。
全く、悪魔の辞典で愛国者の項目が散々に描かれる訳だ。
必要悪として割り切るほかにないだろう。
良心が若干痛むが、しかしながら緊急避難措置としてこの程度は我慢するほかにない。
投資なり、技術移転なりやりようはいくらでもあるに違いない。
しかしながら、投資部門や技術部門の経験はそれほど豊富ではない。
不味い事に、投資に関しては専門家には到底及ばないだろう。
故に、此処からは単純な現状認識の確認だ。
ついでに自分の部下らが戦争狂であり、自分の監督責任を最小化したいと暗に伝えておく。
尤も、相手はそこまで理解してくれてはいないようだ。
それに、不愉快な現実として入管の問題もあるのだ。
カバーの経歴を用意してもらえるとしても、どこまで有効なものが与えられることか。
軍歴まで不問にするために、記録そのものを抹消した上での市民権。
所謂証人保護プログラムに近いものならば、問題は少ない。
それに、年齢相応ということになるだろうから、大学ではなく中高教育からという事もあり得る。
確かに時間を必要とするが、その程度であれば、こちらとしても願ったりかなったりなので問題はない。
加えて回顧録を出して、何人殺しただの殺されただのを語るのは、趣味でもないのだ。
だが、好意的であるならば使えるものは使うべきだ。
望みがかなうと言うよりも、得難い結果を得られたと感じればこそだ。
まず危険地帯送りを回避できたうえに、カバーの経歴まで確保。
最悪、南米あたりで行動するしかないと覚悟していただけに大満足の結果であるといえよう。
それは、本人にとってはあます事のない誤解でもある。
だが、自分以外の全員がターニャ・デグレチャフという魔導師は正真正銘の愛国者だと確信していた。
そして、『ライヒ』のためにという口実を、誰もが本音だと確信していたのだ。
狂犬どころか、合理的に牙をとがらせる戦争狂が未だに戦い足りないのかと本気で恐怖したほどだ。
今では、軍歴が人生の過半を既に占めているというほどの戦争漬けで生きてきた軍人。
性質の悪い事に、恐ろしく有能なのだ。
故に、買収だろうと何だろうと手段を選ばずに取り込むことをジョン・ドゥ課長は神にも等しいほどの上から命じられていた。
だが、敗軍の将が、なぜ負けたのかを学び、かつ自国の再興のために奮起すると言うならば、少なくともマシだ。
幸い、外見年齢ならば十分入学誤魔化しが利く。
アングロサクソン系というには少々顔がゲルマン系に近いが、ゲルマン系市民も少なくない。
悲しいかな、ターニャはそれに最後の瞬間に入学許可証が届くまで気付かなかった。
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あとがき
メイン盾:ゼートゥーア閣下。
サブ盾:歴史の擁護
責任者は、責任を取るために存在するのです。byA博士
何とか、何とかあとちょいで終わり。
長かった…。
マリーンと陸軍を間違えるという愚挙を犯したカルロ・ゼン形式番号もはや不明をZAPしました。
責任者は、責任を取って速やかに続編を投稿するべく行動中です。