2001年1月



 あけましておめでとうございます。大みそかは紅白を見ながら年越しそばを食べました。

 3曲メドレーを歌ってしまったモー娘。はすごいなあ。必ず何かネタをやる野猿は偉い。ビートたけし志村けんのコントはあまりのベタさに新宿コマ公演かと思った。郷ひろみに〈なかったコトにして〉を歌わせるのなら、HYPER!GO号2も出してあげたらどうか。以上。

 今日はこれからお雑煮をつくる予定です。

 今年は1月10日に新作『黒い仏』が刊行されます。その後の予定はわたしも知りません。


ニール・サイモン戯曲集』を断続的に読んでいる。第2巻の序文にいいことが書いてあった。


 仕事には真剣に取り組め、だが結果は気にするな。私が支配できるのは私の書くものであって、他人が私について書くものではない。「賛」に和し、「否」に異を唱えるのは、愚かな時間潰しなり。(酒井洋子氏訳)

 ブロードウェイという、めちゃくちゃきびしいショウビズの世界で生き残ってきた人の言うことだけあって、重みがある。批評家を寄生虫下司呼ばわりする人は、よっぽど暇なんでしょうね。


 21世紀最初に観た映画はロマン・ポランスキー監督「水の中のナイフ」(1961)であった。

 おもしろかったけど、元日に観る映画じゃねーぞ、と自分にツッコミを入れました。


 元日、NHK総合で「21世紀・旅立ちの日」という特番を放映していた。

 日比野克彦が視聴者から寄せられたメッセージをオブジェにするという企画そのものはどうでもいいのだが、驚いたのは、オブジェを映すと、題材となったメッセージの内容がリアルタイムでスーパーインポーズされたこと。

 オブジェの中央に2次元のドットコードが印刷されており、カメラで撮影すると、そのドットコードを読みとって、自動的にメッセージをスーパーインポーズするとしか考えられない。しかも、スーパーインポーズの位置まで、オブジェの中央に合わせられていた!

 映像テクノロジーの進化を思い知らされました。


 MC5のベスト盤《THE BIG BANG!》を買ってきて、この世でいちばんかっこいい音楽のひとつである〈Kick
Out the Jams〉を死ぬほど聴いた。

 ところで、“Kick out the jams”って、どういう意味なんでしょうか。「よどみを蹴ちらせっ!」ってな感じかと想像していますが。


 旧知の友人たちとの新年会に出かけたら、

「『20世紀SF』はなんであんなひどい表紙なんだ!」

 と怒っている人がいて、ああ、世の中にはMAYA MAXXヒロ杉山を知らない人がいるんだなあ、と思いました。

 これはラファティやロバーツを知らない程度には非常識だとわたしは思いますけど。


 成人の日の連休なのだが、雪が積もっていて、すごく寒いので、外出する気にならない。そこで家にこもって、納涼中川信夫四本立てを上映することにした。

●「怪談かさねが淵」(1957)

 出演/若杉嘉津子、丹波哲郎、北沢典子

 原作は三遊亭円朝「真景累が淵」。円朝は基本的にモダンな人で、昔「牡丹燈籠」を読んだとき、いわゆる怪談噺のイメージと全然違うので驚いたことがある。この原作も、真景が「神経」のもじりであることからもわかるとおり、むしろニューロティック・スリラーに近い。

 丹波哲郎が脇役で出演しているが、当時から台詞を覚えなかったらしく、全部アテレコ。しかも、リップシンクしてない。

●「亡霊怪猫屋敷」(1958)

 出演/五月藤江細川俊夫

 原作は橘外男。現代篇(白黒)と時代篇(カラー)が入れ子になった化け猫もの。

 時代篇は化け猫が両手を動かすと人がくるくる回ったり、行灯の油を舐めたり、お約束のシーンが盛りだくさん。

●「女吸血鬼」(1959)

 出演/天知茂三原葉子池内淳子

 原作は橘外男「地底の美肉」(って蘭光生みたいなタイトル)。

 吸血鬼とこびとと地底の宮殿が出てくるが、乱歩のバッタモンみたいなつまらないプロットで、四本中ではいちばん不出来だと思う。

 この映画の最大の謎は女吸血鬼が出てこないことです

●「東海道四谷怪談」(1959)

 出演/天知茂、若杉嘉津子

 原作は鶴屋南北東海道四谷怪談」。

 すでに名声を確立した名画なので、わたしがいまさらほめたたえることもないでしょうが、すごすぎる。

 ラスト近くの伊右衛門狂乱のシーンは、ものすごくイマジネイティヴで、これを見ると、SFXと想像力は無関係なことがよくわかります。デジタルCGを使ったからといって、想像力豊かなシーンが撮れるわけではない。

 あと、やっぱりテクニカラーはいいですなあ。わたしが日本人若手映画監督なら、テクニカラーで新作を撮るね。(技術が継承されておらず、実現不可能かもしれないが)

 天知茂一世一代の熱演がすばらしい。最高にかっこいいです。

 というわけで、マラソン上映を終えたあと、いちばんつまらない「女吸血鬼」でさえ食い入るように観てしまったのはなぜなのか、少し考えてみた。

 たぶん(1)カメラワーク、(2)フレーム感覚というふたつの要素がすぐれているからだろうと思う。

 なぜだかよくわからないけど、カメラが動くと気持ちいい。縦移動、横移動、クレーン撮影など、巧みに動きまわってくれるだけで、観ていて飽きない。

 フレーム感覚というのは、画面内にもうひとつ枠を設けることで、たとえば障子やドアや門の隙間ごしに撮ったり、欄間のあいだから撮ったり、鏡に映る光景を撮ったり、ということ。これまた、なぜだかわからないけど、観ていてどきどきする。

 たぶん四本とももう一回くらい観るんじゃないかと思っています。


 中川信夫監督の怪談映画を観て、ふと思ったこと。

 日本の亡霊の何がこわいかといって、無関係な人まで巻き添えにするのが恐ろしい。「末代までたたる」という言葉どおり、仇の親戚縁者全員が対象なのだ。「亡霊怪猫屋敷」では、仇の息子の恋人(しかも善人)まで殺されてしまう。

 こういうのをペイ・フォワードっていうんでしょうか。


 こういう発想は個人より家や組織を重視する日本独特のものかと思ったら、そうでもないようだ。

 分類学の始祖カール・フォン・リンネに、天罰の実例を集めた『神罰』(邦訳法政大学出版局)という変な著作がある。

 このなかに、親が罪を犯した結果、子供が天罰を受けた例がたくさん紹介されている。そこで繰り返されるフレーズが、

「豚が犯した罪は子豚がつぐなわなければならない」

 これはこわい。亡霊も神様も理不尽ですなあ。


 Furniture
Porn presents CHAIRLIE'S ANGELS


 www.blackbuddha.com

“Black Buddha”というのはリサイクルベースのブランド名らしい。Tシャツやベースボールキャップバックパックを売っている。

“Black Buddha”Tシャツ欲しいなあ、と思って、ストアを試してみたが、まだ準備中みたい。残念。


 2001年1月19日は、わたしの37回目の誕生日である。

 1月19日生まれの有名人には、エドガー・アラン・ポー森鴎外ポール・セザンヌ松任谷由実などがいるらしい。これを見て、「1月19日生まれには才人が多い」と結論したいところだが、なに、あなたと同じ誕生日にも同じくらいすごい人たちが生まれているはずです。それに、ウド鈴木も1月19日生まれです。


スタジオパークからこんにちは」(1/24放送、NHK)を見ていたら、鈴木重子さんがゲストだった。

 わたしはこの方のことをまったく知らなかったのだが、ぼんやり話を聞いているうちに、唖然となった。

 幼い頃、家に毎日、家庭教師がやってきて、習い事や勉強を教えてくれた。それも、野原に行って花をつみ、図鑑で名前を調べて、押し花にするという楽しい方法で、おかげですっかり勉強が好きになり、高校時代は成績優秀。教師から勧められて、東大法学部に入学。

 一応、司法試験も3回受けたが、その後、歌のレッスンを受けはじめ、現在はジャズシンガー。そのかたわら映画に主演したり、エッセイを書いたりして、幅広く活躍しているらしい。

 で、ご本人は見るからにいいとこのお嬢さんで、天然ボケ風の話しぶりで、けっこう美人で、歌もうまい。

 いやー、ここまでくると、うらやましいとか、ねたましいという気持ちさえ起こらない。世の中にはこういう人が実在するんですねえ。すっかりファンになりました。


 鈴木重子さんは、高校の教師に勧められた(つまり、偏差値が東大法学部に合格する水準にあった)ので、東大法学部に入学したが、すぐに自分には向いていないと感じたそうだ。

 そんな彼女がなぜ司法試験を3回も受験したか、という理由がふるっている。

「わたし、朝起きられないんですよ。だから、普通の会社員とか、朝早く起きなくちゃいけない仕事はできないと思ってまして、自分の好きな仕事をするには、資格を持っていたほうがいいかな、と

 これで合格していたら、もっとすごかったが、さすがにそこまでは無理だったらしい。こんな人に司法試験合格された日には、不幸な法学部学生は全員、舌を噛んで自殺したくなるでしょうね。

 菊川怜はこういう人(東大出身を売り物にしなくていい人)がいちばん嫌いだと思う。


 ベーコンとレタスを鶏ガラスープで少し煮て、塩コショウすると、手軽でおいしいスープになる。

 夜中、ふと思いついて、ここに別にゆでたインスタントラーメンを投入してみた。丼に盛ったあと、ついでに、つくりかけの小松菜のおひたしを上にのせた。

 厳密には、これはラーメンではなく、ヌードル入りスープというべきものだが、夜食にちょうどいいので、またつくろうと思っている。

 ただし、インスタントラーメンの粉末が余るのが難点。(あ、そうか。中華生麺を買ってくればいいんだ)


 ちょっと調べたいことがあって、Eric Weissteinさんのオンライン数学事典mathworld.wolfram.comにひさしぶりにアクセスしてみたら、一時閉鎖されていたのでびっくりした。(去年の10月かららしい)

 断り書きによると、EricさんはCRC社と契約して、このオンライン数学事典の内容の一部をもとにしたConcise Encylopedia of Mathematicsを出版したらしい。そうしたら、CRC社から「ウェブサイトで同一内容を公表するのは著作権侵害だから閉鎖しろ」と訴えられたそうな。

 Ericさんは「わたしはウェブサイトの内容を出版物にする権利を売っただけで、ウェブサイトそのものを売ったのではない」と主張。現在訴訟中であり、裁判所からの命令で、決着がつくまでウェブサイトは一時閉鎖せざるを得なくなったらしい。

 mathworld.wolfram.comは非常にすぐれたウェブサイトで、数学分野で知りたいことがあるとき、しばしば参照させてもらっていた。こんなくだらんことで潰されるのは大変惜しい。裁判所の公正な判断を切に望みたい。(だいたい、ウェブサイトがあったって、頻繁に利用する人は書籍で買うよ)


 追記——2001年11月に復活した。めでたしめでたし。