真の OJT




第一次世界大戦勃発によって、当時5,000人の作業者が勤務していた米国の61の造船所に、その10倍の造船所作業員の補充が必要となった。補充要員がいなかったため新人を訓練することになったが、その時代の米国内の職業訓練施設の能力では間に合わなかった。


緊急要員訓練プログラム作成の責任者に任命されたチャールズ・R・アレン(Charles Ricketson "Skipper" Allen)は、造船所の現場監督を指導者として、造船所内の現場ですべての訓練をすることを決めた。そして1917年、教育学者ヘルバルト *1 の5段階教授法 *2 をもとにアレンが開発した具体的な職業指導法が、4段階職業指導法 *3 であった。アレンの4段階職業指導法とは、概ね下記のようなステップで実施する。

  1. 新人を配置――安心して行うこと。彼らが仕事に関し、事前に何かを知っているかどうかを調べること。彼らに学習に対する興味を持たせること。適切な持ち場を与えること。
  2. 作業をして見せる――注意深く、根気よく、説明し、見せ、図示し、そして質問する。キーポイントを強調すること。一度に1点づつ、はっきりと、完全に教えること、しかし、彼らがマスターできる限度を超えてはいけない。
  3. 効果を確認する――彼ら自身に仕事をやらせてみる。彼らに説明させながらやらせること、彼らにキーポイントを説明させて示させてみること。質問し、正解をたずねること。彼らが理解したと判断できるまで、続けること。
  4. フォローする――彼らに、彼ら自身が必要なときにだれに質問したらよいかの相手を判断させる。頻繁にチェックすること。積極的に質問するよう促すこと。彼ら自身に、その進歩に応じたキーポイントを見つけさせること。特別指導や直接のフォローアップを段々減らしていくこと。

これが中世以来の徒弟制度(現在も多く存在する)ではない職場指導、すなわちOJTの始まりと考えられる。


さらにアレン式4段階法は20数年後、第二次世界大戦中の米国戦時人事委員会(War Manpower Commission)によって企業内訓練(TWI:Training Within Industry)の次の4つのプログラムに発展した。

JIT(Job Instructor Training、仕事の教え方、1942.4)できるだけ早く作業者を教える技能を身につけるように訓練するために開発され、ロールプレイングの手法を取り入れ、OJTを行う監督者の技能を向上させることを基本的な目的とした。

  1. JRT(Job Relations Training、人の扱い方、1943.2)
  2. JMT(Job Methods Training、改善の仕方、1943.9)後にJST(Job Safety Training)
  3. PDT(Program Development Training、訓練計画の進め方、1944.9)

このTWIプログラムが戦後の日本に入ってきて、現在の企業研修のもとになっていることはいうまでもない。

*1:Johann Friedrich Herbart 1776‐1841

*2:予備、提示、比較、総括、応用

*3:the "Show, Tell, Do, and Check" method of job instruction、やってみせる→説明する→やらせてみる→補修指導